デンマーク人が4時に帰れる理由とは? 「働きながら本を読める国」の思想
人間関係を重視して仕事をする日本
――デンマークがいまのホワイトな働き方になるには、どういう経緯があったのでしょうか。 【針貝】デンマークも以前は他の先進国と同様に労働時間が長かったのですが、1950年代後半からだんだんと減ってきました。 近年はコミューン(市)や民間企業でも、週休3日を導入するケースが増えています。背景にあるのは、仕事以外の「余白の時間」がクリエイティビティを引き出し、むしろ仕事の生産性を高めるという発想です。家族や友人とキャンプを楽しむ、自然のあふれた場所でペットと散歩する。こうした時間は「仕事にも役に立つ」と考えられているんです。 【三宅】週休3日の場合、1日の労働時間を増やして1日分を休みとして捻出するのか、あるいは週全体の労働時間を減らす場合、比例して給料も抑えられるのか、そのあたりはいかがでしょうか。 【針貝】さまざまなパターンがありますが、理想は完全に休みを1日分増やして給料は据え置くパターンです。これが難しい場合は、まずは1日の労働時間を増やす代わりに休みを1日分増やす形で週休3日を導入する企業もあります。 テイク・バック・タイムという企業を経営しているペニーレさんによると、週休3日にしたほうが仕事の生産性や満足度は向上すると言います。 いずれにしても、社員の要望に応じたフレキシブルな働き方を許容する文化がデンマークにあるのは間違いありません。 【三宅】書店に行くと、北欧の先進的な働き方を取り上げる本は以前からありましたよね。それでも日本の働き方がデンマークのように思い切って変わる気配は薄いように感じます。全身全霊のマインドか否か以外に、日本とデンマークでは何が違うのでしょう。 【針貝】デンマークに来て痛感したのは、優先順位のつけ方の大胆さ、言い換えれば優先順位の低いものを「捨てる力」です。たとえば仕事のなかで重視すべき業務を1位、2位、3位と決めたら、4位以下は「これは本当にする必要があるのか?」とつねに疑い、不要だと考えたら捨ててしまう。 日本は良くも悪くも「そこに球があると拾ってしまう」文化です。だからこそ顧客・消費者に優しいサービスを提供できているとも言えます。 とはいえ、読者の皆さんのなかにも「何となく進めているけど、この仕事はする必要があるのか?」と思っている方も少なくないはずです。 【三宅】よくわかります。針貝さんの著書を読んで面白いと思ったのが、先ほど名前を挙げられたペニーレさんが提起された「1時間の会議は50分に設定する」です。あえて中途半端な数字にすることで時間に意識が向き、会議がダラダラと延びにくくなるという狙いですが、自分がこのやり方を実際に仕事相手に提案できるか自信がないとも思ってしまって......。 【針貝】なるほど。 【三宅】なんで言いにくいのか考えてみると、「時間を短く設定したら、相手を軽んじていると思われるのではないか」という不安があるのだと気づきました。特別な理由もなく「1時間ではなく50分でお願いします」と伝えたら、「あなたとの時間は1時間も取りたくない」と言っているように聞こえなくもないなと......(笑)。 【針貝】たしかにそう捉える人もいるかもしれません(笑)。 【三宅】相手を軽んじていると思われたくないという思考は、日本では仕事全般に言えることだと思います。残業を断れないとか、必要か疑わしい会議や飲み会に参加してしまうとか。仕事において生産性ではなく人間関係に重きを置く文化は日本らしいですね。 一方で針貝さんの著書のなかで、デンマーク人は人付き合いをあまりしないと書かれていて、やはり人間関係の部分が日本とは違うのかなと考えていました。 【針貝】デンマーク人、友達も少ないですよ(笑)。仕事においても、日本のように人間関係重視の進め方はしませんね。ランチは30分だけ、打ち合わせでは忙しい相手だと5分だけ用件を話して終わり、という場合も珍しくありません。 【三宅】仕事の本質と関係のないコミュニケーションに時間を割かないことが暗黙の了解になっているんですね。 【針貝】はい。メールも用件を簡潔に伝えることが求められ、私もデンマークに来たころは「なんか淡泊だな......」と感じました。でも慣れれば気にならないし、むしろ丁寧でも長々と文章を書くことは、その分相手の時間を奪ってしまうのだなと痛感したものです。 【三宅】私自身も、仕事の内容そのものではなく、相手への気遣いや礼儀といった形式的な部分に時間を取られている実感があります。 【針貝】コミュニケーションは片方が気遣うと、もう一方はそれに応えようとしてしまうものです。デンマークのように、「別に仕事がすべてではないよね。格式ばった慣習はいらないよね」と割り切る姿勢が、サステナブル(持続可能)な働き方への第一歩なのかもしれません。