デンマーク人が4時に帰れる理由とは? 「働きながら本を読める国」の思想
労働者の負担とサービスの質は表裏一体
――逆に、日本の働き方の良い点を挙げるとすれば何でしょうか。 【針貝】一つは先ほども少し触れましたが、日本は労働者というよりも顧客・消費者にとってありがたい国だと思います。 【三宅】祝日でもお正月でも、スーパーやコンビニは開いていますね。サービスを受ける側にとっては、とても便利で安心です。 【針貝】あと日本は、会社内の「横の連携」がしっかりしています。直接の担当ではない人に問い合わせても、その人が会社の代表として対応してくれたり、丁寧に取り次いでくれたりする。 デンマークだと、事前に担当者を見つけてピンポイントで連絡しないと、「私の業務ではないので」と一蹴されることもあります。 【三宅】「これは自分の仕事、これは自分の仕事ではない」というすみ分けがはっきりしているのですね。日本企業よりも職務要件が明確というシステムの問題もあるのでしょうか。 【針貝】そうですね。労働者の負担と消費者へのサービスの質は表裏一体ですから、デンマークの「ゆるい働き方」によって失われているものもあります。 私が以前、行政の窓口にある問い合わせをしたら「最大60日以内に回答します」と自動返信が来て、期限最終日の60日目に回答が返ってきました。日本なら期限内でもなるべく早く対応してくれるのが不文律になっている節もありますが、デンマークはあくまでも「無理しない」仕事のやり方が当たり前なのです。
「即レス」をやめよう
――デンマーク人は仕事でも人生全体においても、優先順位をはっきりつけるというお話がありました。お二人は日々の生活のなかで、「仕事」「家族」「趣味」「その他」などでどのような優先順位をつけていますか? 【針貝】私は「仕事」と「趣味」がほとんど一体になっていて、それらが人生の大きなやりがいになっているのは間違いありません。また今回の本を書くにあたって、デンマーク人の夫から「ちゃんと睡眠と休暇を取って、家族との時間も大切にしてほしい」と言われ、デンマーク式の働き方を私自身も実践したところ、家族との関係が良好になりました(笑)。 一方で、以前よりも優先順位を明らかに下げたのが「交友関係」です。同じ人に頻繁に会ったり、何となく行っていた会合に足を運ぶのをやめました。あとグループチャットでの即レス(すぐ返信すること)もやめました。たとえ交友関係を削っても、本当に大事な人との関係は自然と続くものですし、それでいいと思うようになったんです。 【三宅】私の最優先は「健康」です。身体を壊したら何事も楽しめなくて、元も子もないので。 次に「仕事」と「家族」が同じくらいで、その次が自分の「趣味」という順番ですね。私も針貝さんと同じように、仕事と趣味が密接につながっています。直近の仕事と直接関係のない本を読むことを「趣味」とすると、私にとってそれは「心の健康」のために重要な営みですから、最優先事項の「健康」にも結びついています。 一方で私はもともと、LINEやメールといったメッセージの優先順位が低いというか、苦手なんです。リアルに会う友達との食事や旅行の時間は大切にしますが、会っていないときのメッセージの時間は無意識のうちに手放していますね。 【針貝】三宅さんは「即レスしない」を自然と実践されていて素晴らしい! 私の夫もそうですが、デンマーク人は「相手と一緒にいる時間」をとても大事にします。 とはいえ、スマホ依存は日本だけではなく、デンマークでも若い世代を中心に社会問題になっていて、睡眠障害やうつ病など健康への影響も指摘されています。三宅さんの著書のなかの「働きながら本を読むコツをお伝えします」で、iPadにはSNSアプリを入れず、通知も切ると書かれていて、これはいいアイデア、本当にそのとおりだなと頷いていました。 【三宅】ありがとうございます。ぜひ読書のときくらいはスマホを手放して、本の世界観に没入してほしいなと思います。