なぜ巨人の菅野智之は今季初勝利を桑田真澄に並ぶ通算21度目の完封で飾ることできたのか?
118球中20球がフォーク。しかも勝負球として8人の打者の結果球に使い、すべて成功している。制球も安定。抜け球もなかった。特にスイッチを入れる必要があったポイントで使った。 勝利投手の資格が手に入る節目の5回には、一発のある宮崎を投ゴロ、戸柱を二ゴロ。いずれもフォーク。6回二死一塁ではスタメンに入って2試合目のオースティンに対して低めにフォークを落としてスイングアウトを奪った。そして7回も一死一、二塁で、代打・倉本へフォークを低めにコントロールして計算通りに投ゴロ併殺打に打ち取っている。完封のかかった9回にも一発を警戒。オースティンに前の打席とまったく同じ攻めで、最後はフォークで空振りの三振。 試合後には、「色んなボールを投げましたが、軸になるストレートをうまく使いながら大城と(炭谷)銀仁朗さんが引っ張ってくれた」と、マスクをかぶった2人を称えた。 4回に一死からオースティンにフェンス直撃の二塁打を打たれたが佐野をカーブで二ゴロ。続くソトは「軸になる」ストレートで押し込んだ。ツーシームは打順がふた回りするまで使わないなど、クレバーなボールのチョイスで横浜DeNAに攻略の糸口をつかませなかった。 7連敗を喫した三浦監督も「開幕とはボールが違っていた。開幕のバッティングをさせてもらえなかった」と脱帽である。 キャンプはスロー調整だっただけに、ここまで2試合は、まだ本来のボールの力が戻っていなかったのだろう。 調整に工夫もあった。 「前回の登板の時に立ち上がりにすぐやられてしまったので、立ち上がりから飛ばしていけるようにブルペンで調整していました」 9日の広島戦では、初回に菊池、鈴木にソロを浴びて2失点。結果的に7回を4安打2失点にまとめたが、チームは0―2で敗れた。先制点を献上することの重大さがわかっている菅野は、おそらく立ち上がりからエンジンがかかるようにブルペンでの球数やウォーミングアップ時間を変えるなどの微調整をしたのだろう。 それでも1回はコントロールに乱れはあった。 先頭の桑原にライト前ヒットを許した。しかし、横浜DeNAベンチの作戦に助けられる。三浦監督は何の策も講じず2番の牧に“普通”に打たせて遊ゴロ併殺打。「牧には特に制限をかけていない」と三浦監督は説明した。現状、最も信頼のおける牧を2番で起用したのだから、バントや進塁打の選択肢がなく、菅野の不安な立ち上がりを一気に叩きにいった“番長戦略“も理解できるが、菅野の準備と経験がそれを上回った。回を重ねるにつれ、制球を修正していき、危ないボールはほとんど投じることもなかった。 監督経験のある某大物評論家は、開幕前の順位予想を当初の「阪神優勝」から「巨人優勝」に急遽、差し替えた。その理由として「菅野がメジャー移籍を断念してチームに残留したこと。去年のような開幕13連勝は無理だと思うが、菅野はゲームを作る。巨人の投手陣には菅野に続く軸が見えなかったが、計算のできるエースが残留したことでシーズンをトータルでマネジメントできるようになった。連敗を止めることができるし菅野は一人で貯金を作ることができる」と力説していた。