今季限り引退を発表した阪神・藤川球児の「責任の美学」…「みんなの幸せが自分の幸せになる」
阪神が8月31日、藤川球児(40)の今季限りの引退を発表した。藤川が球団に対し今季限りの引退の意向を申し入れて了承されたもの。1年を通じてのコンディションを保つことが難しいことと、チームへの迷惑を考えた責任感が引退理由だという。プロ19年目の藤川は、右上肢コンディション不良で8月13日に登録抹消され、現在2軍でリハビリ中で、名球会入りの条件である日米通算250セーブに残り「5」に迫っていた。
今季1勝3敗2S、防御率7.20と苦しむ
土佐の「いごっそう」…辞書を引くと「頑固で気骨のある男」とある。高知で生まれ育った藤川らしい決断だと思った。今季はクローザーとしてスタートしたが、開幕6戦目となる6月25日のヤクルト戦で西浦直亨に逆転サヨナラ3ランを浴びて救援に失敗するなど、ここまで、2度登録を抹消され、11試合1勝3敗2セーブ、防御率7.20と結果を残せていなかった。 責任感の塊のような男である。昨年の“鳥谷敬騒動“に代表されるように阪神では、過去に名プレーヤーの去り際にトラブルが少なくなかった。現役プレーヤーとして、それらを目の当たりにしてきた藤川は引退の美学を守ったのだと感じた。 これまで藤川に何度かインタビューをさせてもらったが、忘れられない言葉がある。2007年のオフにメジャー移籍を球団に訴えた藤川が、2008年のオフには、一度、その願いを取り下げた。この年、13ゲーム差を原辰徳監督率いる巨人にひっくり返され、勝利方程式の「JFK」を確立して、藤川をセットアッパー、クローザーとして輝かせた岡田彰布監督が辞任を表明した。 巨人への最後のリベンジをかけたクライマックスシリーズの第1ステージの1勝1敗で迎えた中日との第3戦。0-0のスコアで登板した9回二死三塁で、落合博満監督が不動の4番に据えていたタイロン・ウッズにフルカウントから投げ込んだ渾身のストレートを弾き返され、敗退が決まり、これが岡田監督のラストゲームになった。 「終わったと思いました。みんなの総意のボールを弾かれたんです。岡田監督に育ててもらって一緒に作ってきた時代が終わったんだと。もうやることはなくなった。これで意地を張らなくていいと思いました」 藤川が阪神でやり残したことはなくなった…。 この年、北京五輪のために野球をし、残りのシーズンを「仕事」と割り切って守護神の責務を全うした。ポスティングによるメジャー移籍を何がなんでも球団に認めてもらおうと考えていた。だが、そのオフにチームは、真弓明信新監督で再出発することが決まり、藤川は、その夢を封印したのである。