「面白みは枠があるときに見つかる」。作詞家いしわたり淳治の言葉との向き合い方
立場を変えてもう一度体験「心が増えた」状態
―自身の家庭に目を向けた【家族】の章では、 家族が増えることを「心が増える」という言葉で表現されていました。 いしわたり:自分にもかつて思春期みたいな時期はあって、しんどい思いをしながらどうにかそこを乗り越えてきたんですけど、今度は子供がその時期をむかえて同じところに突っ込んでくるんです。そのときに、君の人生だから好きにしなさいとはなかなか言えないんですよね。やっぱりしんどいだろうなと思うので、こっちも食らっちゃうというか。そういうことを経験すると「心が増えた」状態に近いなと思います。自分がやっとクリアしたことを、立場を変えてもう一度体験しなきゃいけないのは、二回目をやる意味があるからそういうことになってるんでしょうね、きっと。 ―ちなみにテレビ以外だと、たとえばラジオから言葉を採集することはありますか? いしわたり:ラジオは意外と滅多に聞かないんです。どうしてかと考えたときに、一つにはテレビのトーク番組をラジオ感覚で聞いているからというのがあります。それともう一つ理由があって、テレビでも生放送は一切見ないんですよ。編集されたものが好きなんですよね。ラジオは生放送が多いじゃないですか。だから今の最大の悩みは年末年始が近づいてテレビでも生放送が増えること。実は連載で一番困るのはこの時期なんです。 ―「アスリートは一定」という本田望結さんの発言にも言及されていましたが、長期連載となると常に一定の調子を保ちつつ、肝心なときに自分のピークを合わせることも重要になってきますね。 いしわたり:受験の前とかはみんなそんな気持ちだったはずなんですよ。一回一回のテスト結果に一喜一憂するよりも、最終的な本番に向けて仕上げていましたよね。アスリートと言うと別の世界の人のようだけれど、誰もが無意識にやっていることでもあって、ただ言語化されていなかっただけだと思うんです。いざ聞いたときにハッとするのはおそらく身に覚えがあるからで、誰かがこうして言葉にしてくれたおかげでそれに気づくのは面白いですし、みんなが感じているけれど名前のついていない何かを自分でも見つけることに興味があります。 ―言語化されてないことはまだまだ無限にある。新しい言葉もどんどん生まれてくる。ワードハンティングには終わりがない。何げない顔をしながら地味な筋トレを積み重ねていくように、いしわたり淳治の言葉をめぐる冒険は続く。― 取材・文:奈々村久生 写真:小財美香子 ■プロフィール いしわたり淳治 作詞家・音楽プロデューサー 1997年にロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビューし、オリジナルアルバム7枚、シングル15枚を発表。そのすべての作詞を担当する。2005年のバンド解散後は、作詞家として、Superfly『愛をこめて花束を』、Little Glee Monster『世界はあなたに笑いかけている』、King&Prince『ツキヨミ』他、SMAP、関ジャニ∞、Hey!Say!JUMP、DISH//、矢沢永吉、石川さゆり、TOMMORROW X TOGETHER、EXO、NCT127、JUJU、中島美嘉、上白石萌音、まふまふなど、音楽プロデューサーとして、チャットモンチー、9mm Parabellum bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKY、BURNOUT SYNDROMESなど、ジャンルを問わず数多くのアーティストを手掛ける。現在までに700曲以上の楽曲制作に携わり、数々の映画、ドラマ、アニメの主題歌も制作している。2017年には映画『SING/シング』、2022年には『SING2』の日本語歌詞監修を行い、国内外から高い評価を得る。音楽活動のかたわら、映画・音楽雑誌等での執筆活動も行っている。 著書の短編小説集『うれしい悲鳴をあげてくれ』(筑摩書房)は20万部を刊行、ほかに「次の突き当りをまっすぐ」(筑摩書房)がある。本連載『いしわたり淳治のWORD HUNT』に掲載されたコラムをまとめた書籍『言葉にできない想いは本当にあるのか』(筑摩書房)を発売中。2021年からは新ユニットである「THE BLACKBAND」を結成し、そのメンバーとしても活動中。
朝日新聞社