大気汚染が成人の湿疹リスクを増大させる可能性 米研究
工業化により経済が発展し、技術の進歩が進んだ地域がある一方で、何十億もの人々が汚染された空気を吸っている。大気汚染では呼吸器系の問題が引き起こされることが多いが、新たな研究によると皮膚にも悪影響を与える可能性があるという。大気汚染レベルの高い場所に住む人は湿疹が出やすいことが研究で示された。特に微小粒子状物質が危険因子だとしている。粒子状物質(PM)は空気中に浮遊する土や塵の粒子、酸、有機化学物質、金属が混ざったものだ。 「湿疹は工業化に伴い多くみられるようになっている。産業活動で直径2.5マイクロメートル(μm)未満の微小粒子状物質(PM2.5)などが排出され、周囲の大気を汚染している」と研究者たちは指摘している。「多様かつ多くの米国人(成人)を対象に行った調査では、PM2.5の濃度が高いほど湿疹の罹患率が上昇した。大気汚染は皮膚炎につながる環境ハザード(危険因子)だ」 研究者らは、米国立衛生研究所(NIH)が主導する米国人の健康データを収集・分析する「オール・オブ・アス」研究プログラムを活用して成人28万6862人のデータを分析した。その結果、約4.4%にあたる1万2695人で湿疹がみられ、そうした人々は大気汚染がひどい地域に住んでいることが示された。 「PM2.5にさらされた皮膚細胞と湿疹患者の皮膚の両方で酸化反応によるダメージがみられる。PM2.5が1立法メートル(m3)あたり10μg(マイクログラム)含まれると湿疹のリスクが約2倍になるという発見は臨床に沿っていると同時に、米環境保護庁(EPA)の大気質指標(AQI)のように実用的なものでもある」と説明した。 また、「湿疹のある患者では、大気質指標が『普通』レベル(12.1~35.4μg/m3)になると、『良好』レベル(0~12μg/m3)時に比べて湿疹が悪化したり急性炎症を発症したりするリスクが高くなる。大気質指標がさらに悪化するとリスクは一層高まる」という。「大気質指標が『普通』またはそれよりも悪い水準に達した場合、湿疹を患う人は屋内にとどまる、屋内の空気を浄化する、外出時は皮膚を覆うなどの措置を講じることが勧められる」としている。 この研究は11月13日に学術誌『PLOS ONE』に掲載された。 世界保健機関(WHO)によると、2019年には環境大気汚染への曝露が原因で420万人が死亡した。過去の研究では、大気中のPM2.5や直径10マイクロメートル以下の粒子状物質(PM10)の濃度が高いと、アトピー性皮膚炎や皮膚の老化、アレルギー性皮膚炎の発症や悪化にもつながる可能性があると指摘されている。 学術誌『Annals of Dermatology』に掲載された2021年の研究で、韓国の研究チームは健康なヒトの皮膚でも粒子状物の濃度の上昇が顔の赤みや肌の色むらの一因になっている可能性があると指摘した。 「皮膚は人体の外側を広く覆っているため、常に環境にさらされている。総合的に、粒子状物質は皮膚バリア機能障害、酸化ストレス、炎症など炎症性の皮膚疾患につながっている」と中国の研究グループは2023年の研究に書いている。 「粒子状物によって引き起こされる炎症性の疾患を抑制するには、抗酸化物質やビタミンDの摂取、細菌叢の調節が効果的」とも指摘している。
Anuradha Varanasi