グレッグ・アラキ『ドゥーム・ジェネレーション』『ノーウェア』が描いた、若者たちの生と性と怒り
グレッグ・アラキ監督の2作品がデジタルリマスターされ、11月から劇場公開されている。11月8日に『ドゥーム・ジェネレーション』、15日には『ノーウェア』が公開された。ニュークィアシネマというムーブメントを牽引し、インディ映画界で知られた存在であるグレッグ・アラキ。そもそも、ニュークィアシネマとは? そのなかでアラキ作品の独自性とは? 劇場公開の2作品の解説も交えながら、ライターのセメントTHINGが綴る。 【画像】『ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版』より
インディ映画界の巨匠、グレッグ・アラキ。リマスター機に再注目
「グレッグ・アラキ」という名前を聞いたことがあるだろうか? 日本において「知る人ぞ知る」存在であるこの映画監督は、一方本国であるアメリカにおいては、インディ映画界の巨匠として尊敬を集めている。 1987年に長編映画『途方に暮れる三人の夜』でデビューしたアラキは、90年代を通し挑戦的な作品を次々と発表。映画界に衝撃を与え、瞬く間にカルト的な知名度を獲得した。その後も新作を発表するたび話題を集め、2010年に『カブーン!』(2010年)で『カンヌ国際映画祭』のクィア・パルム初代受賞者となるなど、着実にその名を高めていった。 そんな彼の人気は近年も衰えることなく、むしろファッションや音楽など各方面を巻き込んだ盛り上がりをみせている。KENZOからの依頼で製作された短編『Here Now』(2015年)。『トータリー・ファックド・アップ』(1993年)から着想を得たHeaven by Marc Jacobsのコレクション。直近ではアラキの新作『I Want Your Sex』に、ファンを公言するCharli XCXの出演も決定している。 さらにそんな再評価の機運における決定打となったのが、去年のサンダンスやトロントでお披露目された「ティーン・アポカリプス・トリロジー」4Kデジタルリマスター版の公開だろう。アラキ自身が「ひどい出来」と語る劣悪なクオリティのソフト版でしか鑑賞できなかった3部作が、まさかの復活を遂げたのである。 そしてそれらの作品は、かつての賛否両論ぶりが嘘のように批評家からの称賛を集めた。なかでも米『IndieWire』誌は、「28年前に撮られたグレッグ・アラキの『ドゥーム・ジェネレーション』こそが、今年の最も大胆不敵な映画的達成だった」とまで言い切った。時代のはるか先をいっていたアラキの表現に、ようやく世間が追いついたのだ。 そしてその伝説的3部作より、『ドゥーム・ジェネレーション』と『ノーウェア』がとうとう待望のリバイバル公開を果たす。作品の背景にある文脈を解説しつつ、グレッグ・アラキの作品がもつ、色褪せない魅力へと迫る。