「女脳」「男脳」はなぜ間違っているのか…女性と男性の「性差」についての意外な事実
空間認知能力はわずかに男性が有利、だけど。
前回記事で、知能の性差にかかわる2つの注意点をみてきました。3つ目の注意点は、様々な能力を含む一般知能に性差はなさそうなのですが、個別の能力を見ると性差があるものもある点です。一般知能とは、様々な能力を総合的に評価したものです。人間の総合的な頭の良さみたいなものだと思っていただければよいかと思います。そして、この総合的な頭の良さにはほとんど性差がありません。ですが、その中に含まれる2つの能力には差がある可能性が示されています。それは、空間を把握する能力と、言語を使う能力です。 筆者が大学生のころ、『話を聞かない男、地図が読めない女』(アラン&バーバラ・ピーズ、2000年)という本が大ベストセラーになりました。性差を過度に単純化しており、「女性脳」「男性脳」のような神話が社会に広まってしまう1つの契機になったものでもあるので、研究者としては評価できるものではありませんが、この本のタイトル自体は性差をうまくとらえているように思えます。 長年にわたる研究が出した結論として、空間認知はやや男性が得意であり、言語能力は一部において女性がほんの少し得意であるということが示されています。とはいえ、性差が認められるのは、ほんの限られた課題や場面でのみです。 空間認知について、代表的なものは心的回転(メンタルローテーション)です。これは、心の中で物体をイメージして、それを回転させることです。たとえば、立方体の図形を見て、それを90度回転させたらどうなるかを想像して課題を遂行したり、画面上に提示された色々な角度の手が右手か左手かを判断する際に、頭の中で手を回したりするのが心的回転です。 心的回転については、膨大な数の研究がなされており、男性のほうが女性よりも、あくまで平均的に、心的回転の成績が良いと言えます。その差は、他の様々な能力の性差に比べると大きなもので、心理学者の中でも心的回転については性差があると言って差し支えないと考えられています(※3)。 とはいえ、空間認知の中でも、心的回転以外の能力はそれほど強い証拠はありませんし、後で述べるように、性差と個人差の問題についてはしっかり考える必要があります。