若手は「ホワイト過ぎて辞める」のではない。常識が転換した、正解がない時代を生きる若者の苦悩
「ゆるい職場」で若手を育てるには…?
いつの時代も、「若者は何を考えているかわからない」と言われるもの。リクルートワークス研究所で主任研究員をしている古屋星斗(しょうと)さんは、そんな若者のキャリアを研究するひとりです。 労働環境の急速な変化により生まれた、長時間労働がなく、心理的安全性も確保されているけれど、教育機会が乏しく成長時間を得られない……そんな現代の職場環境を、古屋さんは「ゆるい職場」と表現します。 今回はそんな「ゆるい職場」でいかにして若者を育成するべきか? について書かれた本『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか “ゆるい職場”時代の人材育成の科学』を元に、今の若手が置かれている環境を捉え、若手育成のヒントを探ります。(聞き手=ヒオカ)
古屋星斗(ふるや・しょうと)さん リクルートワークス研究所 主任研究員。2011年一橋大学大学院社会学研究科修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。17年より現職。労働供給制約をテーマとする2040年の未来予測や、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。法政大学キャリアデザイン学部兼任教員。著書に『ゆるい職場――若者の不安の知られざる理由』(中央公論新社)。
「ビシバシ育てないとダメだ」という逆流ムーブメント
――以前、リクルートワークス研究所がおこなった大手企業の若手社員に対する定量調査を元に、「若者がホワイトすぎて職場を去る」「ゆるすぎて辞める若者が増えている」という報道が繰り返しされて、大きな反響を呼びました。「ホワイトすぎて辞める若者が増えている」のあとに、「叱られたことがない若者が〇割」というデータもセットで取り上げられ、「叱られたことがない若者はけしからん」という上の世代をすごく触発しました。 取り上げられるエピソードも「若者が甘やかされている」みたいな方向に誘導するものばかりで、短く煽るような見出しをつけて、ミスリードを誘いがちなメディアの悪い癖が出たなぁ、と感じました。やはり世間の反応としても「今の若者は叱られたことがない、根性なしだからすぐ辞めるんだ」みたいなコメントが散見されて、「昔は厳しくしごかれたからみんな一人前になれた」といった、懐古主義的な方向に行ってしまいました。この流れをどうご覧になっていましたか? 古屋星斗さん(以下、古屋):一連の報道で、大きく二つの反応がありました。ひとつはキャリアが多様化した正解のない時代を生きる若者や、若者と接するマネージャー層からの「現代の若者が抱えるキャリア不安」への共感です。もう一つは「昔は良かった」というある種の懐古主義で、「ほら言っただろ。ビシバシ育てないとダメだ」「叱ることに慣れていないからすぐ辞める」といった声でした。 びっくりしましたし、そういう反応は全然本意じゃない。長時間職場に囲い込んで、ビシバシ育てるみたいな、僕の本で言うところの「ふるい職場」に戻すという逆流のムーブメントを起こしてしまうんじゃないかと懸念しています。 本の中でも、「本書の筆を取った目的は日本の職場を『ふるい職場』に戻すことなく『ゆるい職場』時代の新しい育て方を確立するための方向性を示すことで、社会議全体の議論を前に進めることにある」と書きましたが、「昔の職場に戻せばいいということではない」ということは何度でも伝えていかなければと思いました。