若手は「ホワイト過ぎて辞める」のではない。常識が転換した、正解がない時代を生きる若者の苦悩
理想は「ゆるい職場」に「キャリア安全性」が加わること
――古屋さんは、若手を取り巻く職場の状態を「心理的安全性」、「キャリア安全性※」の高低をもとに、4つに分類されていますよね。
【参考】現代の若手を取り巻く職場の状況(概念図) 「ゆるい職場イコールホワイトではない」と本では書かれていますが、ゆるい職場とは、この表で言うと、(3)の心理的安全性は高いけれど、キャリア安全性は低い「Loose」な職場に当たりますよね。 これを見ると、若者は「ホワイト過ぎて辞める」のではなく、「キャリア安全性のなさ」から会社に将来性を感じられず不安になって辞めるということですよね。それなのに、まるで「ホワイトでクリーンな環境では若者は成長できない」みたいに受け取る人が多かった印象です。 ※キャリア安全性…“自身の現在・今後のキャリアが今の職場でどの程度安全な状態でいられると認識しているか”を捉える尺度 古屋:おっしゃる通り、心理的安全性が高く、無駄な残業をさせない会社でも、キャリア安全性が低いのが「ゆるい職場」です。一方、真のホワイト企業は心理的安全性が高く、キャリア安全性も高い。ただ労働環境が改善されているだけではホワイト企業とは言えないんです。そして、単なるきつい職場を最近「ふるい職場」と呼んでいるのですが、長時間残業でビシバシ鍛えるというのは「ふるい職場」に過ぎなくて、まだ「ゆるい職場」にすらなれていない。 もっと噛み砕くと、「ゆるい職場」は「ふるい職場」の進化形態。つまり、猿人からネアンデルタール人になった、みたいな感じです。「ゆるい職場」も、まだ進化の過程に過ぎないと考えています。「ゆるい職場」に「キャリア安全性」が加わって、初めて理想的な職場になると思っています。
「優秀な人こそ会社を辞める」が今や常識
――いまの若者はすぐ会社を辞める、ハラスメントに弱い、と言われますが、それはおそらく悪いことではないんじゃないかなとも思うんです。古屋さんの本では、 ・「何か違う」と思ったら会社を辞める ・ハラスメントや不正があったら相談する ・ハラスメントや不正があれば会社を辞める この3項目全てに「あてはまる」と回答した割合は、「10代が最も高かった」とありますが、これはとても正常な感覚だと感じます。また、本には「優秀な人ほど辞める」と書かれていますよね。会社にいられなくなるから辞めるわけじゃなく、むしろ「会社を見切る」。生存戦略と言えるし、どんどん自分が活躍できる場を取捨選択していく、みたいなニュアンスですよね。 古屋:実際データを取ると、会社を辞めるのは優秀な社員で、いわゆる「ぶらさがり社員」じゃない人たちが多い。そうした人は外で活躍できる機会があるから、転職するんですね。 ――「すぐ辞める」の解釈が今と昔ではだいぶ違うのかなと感じました。 古屋:この10年ぐらいで常識が転換しているんです。「優秀な人は出世する。だから会社を辞めない」という時代から、「優秀な人は外でも活躍できる。だから転職する」という時代になった。かつての日本、2008年のリーマン・ショック前後ぐらいまでは、内部労働市場、つまり会社の中で出世して、年収も社会的地位も上げていく方がコスパが良かった。 今では、外部労働市場を使って年収を上げたり、自分のキャリアを豊かにする方がコスパが良いことがわかってきました。だから、別に上の世代の人たちが悪いとか、若手の常識がおかしいとかじゃなくて、単に社会環境の変化なんです。もっと言うと、労働市場の変化。シンプルに環境の違いですよね。