「タリバン新政権」国際社会はどう対峙する? 中ロは融和的か
イスラム主義勢力「タリバン」がアフガニスタンの首都カブールを制圧し、実権を握って半月。新政権の樹立に向け準備を加速していると伝えられます。20年前に米国などの攻撃で政権を追われたタリバンは、旧政権時代、イスラム法を厳格に解釈し、残酷な処罰や女性の権利の抑圧などを行ってきたといわれています。国際社会は「タリバン政権」とどう対峙していくのか。元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。 【図解】米国とアフガンを巡る20年
アフガンのほぼ全土をタリバン掌握
アフガニスタンの首都カブールに迫っていたタリバンは、8月15日に大統領府を掌握しました。アフガニスタンのほぼ全土がタリバンの手に落ちたことになります。それと相前後して、外国人やアフガン人らのカブール脱出が始まり、空港は大混乱になって死者も出ました。米英などは自国民やアフガン人協力者らの脱出のため、軍の部隊や輸送機を派遣しています。日本も自衛隊の輸送機3機を派遣しました。 26日には過激派組織「イスラム国(IS)」系勢力による自爆テロがあり、米兵13人を含む180人以上が犠牲になりました。米軍は報復としてこの組織を攻撃し、幹部2人を殺害。29日には車両を空爆し、米CNNによると、子ども6人を含む9人が亡くなりました。 日本政府の17日の発表では、首都カブールにある日本大使館は15日付で一時閉鎖され、大使館職員12人はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに退避しました。当面はトルコのイスタンブールに臨時事務所を置いて業務にあたることになっています。
米国は「無責任」と国際社会から批判
カブールの陥落が予想以上に早かったのは、ガニ大統領が混乱を望まず国外へ退去したからだとみられます。タリバン政治部門トップのバラダル幹部はビデオ声明で「予想外に早い勝利だった」との趣旨を発言したことが伝えられています。 バイデン米大統領も16日の演説で、政権崩壊の背景として「政治指導者らは諦めて国外逃亡し、アフガン政府軍はときに戦わずして崩壊した」「ガニ大統領は、アフガン政府軍は戦うと言ったが、明らかに違った」と不満を漏らしました。また「アフガン政府軍が戦おうとしない戦争で、米兵が戦って死ぬべきではない」とも述べました。 多数の米国民は、長く続いた戦争を早く終わらせることを望んでいました。米軍の撤退は、トランプ前政権とタリバンとの2020年2月の和平合意に基づくものです。バイデン大統領はこの合意を引き継いで今年4月、米同時多発テロから9月11日で20年になるのに合わせ、米軍を完全撤退させると表明し、5月から正式に撤収を始めていました。とはいうものの、バイデン政権は国際社会から「米国は(また)負けた」と言われ、また無責任だと批判されています。短期的には米国の立場が悪くなるのは避けがたいと思います。