<パキスタン学校襲撃>生徒ら148人を殺害したタリバンの目的は? 放送大学教授・高橋和夫
今月16日にパキスタンのアフガニスタン国境に近い都市ペシャワールでパキスタン・タリバン運動のテロリストが学校を襲撃し148名を殺害しました。そのうちの132名は生徒でした。また多数を負傷させました。 【図解】激動の中東情勢 複雑に絡み合う対立の構図を整理する
「パキスタン・タリバン運動」とは
こうした残虐なテロを実行した「パキスタン・タリバン運動」は、パキスタン北西部の「連邦直轄部族地域」とよばれる地域を根拠地とする複数の武装組織の共同体です。ここは、歴史的に中央政府の統治の及ばない地域として知られてきました。この地域が注目されるようになるのは、2001年のアメリカ同時多発テロ以降です。 同時多発テロを実行したのはアルカーイダと呼ばれるオサマ・ビンラーディンが率いた組織でした。そのアルカーイダはアフガニスタンを支配していたタリバン政権と協力関係にありました。このアフガニスタンのタリバン政権とパキスタンのタリバンは別の組織です。同じタリバンと名乗っているので混乱しがちです。ちなみにタリバンとは、「学生」という意味です。 さて2001年のアメリカ同時多発テロ後にアメリカがアフガニスタンのタリバン政権を攻め、これを崩壊させました。敗れたアフガニスタンのタリバンやアルカーイダの人員が、パキスタンの国境地域へと逃れました。つまり伝統的な自治地域がアメリカの目から見るとテロリストの避難先となったわけです。 この地域へは、アフガニスタン駐留のアメリカ軍が無人機で爆撃を行ったり、パキスタン軍が攻撃をかけたりしました。こうした圧力を受けて、部族や武装組織が2007年にパキスタン・タリバン運動を結成しました。部族地域の自治を守るのが、この組織の目標です。また長期的にはパキスタン全体をタリバン的なイスラム解釈による統治体制下におきたいとの野心を抱いています。 このパキスタンのタリバンと、イラクとシリアでかなりの「領土」を支配する「イスラム国」とは関連があるのでしょうか。組織としては関連はありません。しかしながらパキスタン・タリバンの一部が、イスラム国の「カリフ」に忠誠を誓ったり、あるいはタリバンの支配地域の人が個人としてイラクやシリアで戦ったりしている例はあるようです。組織としての関連が弱いのは、タリバンはアルカーイダと密接な関係にあるからです。イスラム国はアルカーイダから分離した人々が始めたので、両者はライバル関係にあります。したがってアルカーイダに近ければ、イスラム国とは疎遠となるわけです。