クロップ率いるリヴァプールがCL決勝で見せた輝き。ジョーダン・ヘンダーソンが語る「あと一歩の男」との訣別
「スティーヴィーが来ている」と告げられた
生涯追い求めてきたチャンピオンズリーグでの優勝という目標が叶ったが、現実感はなかった。どうにか状況を飲みこもうとしていたとき、「スティーヴィーが来ている」と告げられた。 部屋に入り、なかを見まわした。照明が暗い地階の部屋で、はじめは姿が見えなかった。指さされた部屋の隅を見ると、スティーヴィーはそこに、友人や家族とともにいた。彼はひとりのリヴァプールファンとしてそこにいることを喜んでいた。ここに来たのは、自分が栄光に加わるためではなかった。彼は僕がそうでありたいと強く願うものを体現した人物だ。主将を引き継いでからは、ずっと支えてくれていた。 ユルゲンが監督になった初シーズンの終了後、休暇にロサンゼルスを訪れ、彼とランチをともにした。 そのとき僕は苦しんでいた。チーム内での地位は不安定で、主将として求められているのかもわからなかった。スティーヴィーとの2時間ほどのランチは最高だった。一生懸命やれ、チャンスが来たときにしっかりとつかむんだ、名監督がクラブにいることを楽しめばいい、と言ってくれた。 部屋の隅へと歩いていくとき、主将はチームの勝利で判断されるという彼の言葉を思い出していた。 トロフィーを持ってくるので、一緒に写真に写ってほしいと言った。 「今夜はやめておこう」と彼は言った。いつもと同じ、満面の笑みを浮かべて。 「今日はおまえの夜だ。好きなだけ味わってくれ。この勝利は、俺とはなんの関係もない」 ※次回連載は7月12日(金)に公開予定 (本記事は東洋館出版社刊の書籍『CAPTAIN ジョーダン・ヘンダーソン自伝』から一部転載) <了>
[PROFILE] ジョーダン・ヘンダーソン 1990年6月17日生まれ、イングランド・サンダーランド出身。サッカー選手。ポジションはMF。2015年から2023年までプレミアリーグのリヴァプールの主将を務め、UEFAチャンピオンズリーグ、UEFAスーパーカップ、クラブワールドカップ、(クラブにとって30年ぶりの)プレミアリーグ制覇といったタイトルを獲得。2021-22シーズンにはFAカップとリーグカップの珍しい2冠を成し遂げる。サッカー以外の分野でも、LGBT+のコミュニティをサポートしているほか、新型コロナウイルス蔓延中にはイギリスの国民保健サービス(NHS)を援助する「Players Together」キャンペーンで中心的な役割を果たした。この働きが認められ、2021年に大英帝国勲章(MBE)を与えられる。
文=ジョーダン・ヘンダーソン