クロップ率いるリヴァプールがCL決勝で見せた輝き。ジョーダン・ヘンダーソンが語る「あと一歩の男」との訣別
「僕のキャリアはずっと困難だった。でも…」
これで僕たちは、英雄的だが失敗を重ねたチームではなく、偉大なことを成し遂げたチームとして記憶されるだろう。「たら」や「れば」はもう必要ない。 すべての苦しみや犠牲、痛み。バーゼル(セビージャに敗れた2015-16シーズンのUEFAヨーロッパリーグ決勝)やキーウ(レアル・マドリードに敗れた2017-18のUEFAチャンピオンズリーグ決勝)からの帰国便。ウルブス戦では、プレミアリーグのトロフィーがほかの場所で掲げられることを知りつつ、終戦を迎えた。こうした挫折はすべて消えさった。心にのしかかってこなくなった。もう、チームが批判される理由ではなくなった。そうした敗戦は、ここに到達するまでの戦いの一部だったのだ。 それらがなければ、あの夜、マドリードで達成したことの意味も変わってしまう。いまこそ勝利を味わおう。挫折があったからこそ、挫折につぐ挫折を重ねても前に進みつづけ、負けたあとでも立ちあがってきたからこそ、勝利は特別なものになる。 ステージに集まり、トロフィーが授与されたときに考えていたのは、こんなことだった。そして、ユルゲンがこれまでクラブのためにしてきたことを思うと、彼にトロフィーを掲げてほしかった。ピッチに立って、スパーズの選手たちがメダルを授与されているのを見ているとき、僕はミリーに近づいて、一緒にトロフィーを掲げよう、と言った。 「ふざけるな」彼は独特の口調で言った。「おまえがキャプテンだろう――おまえがトロフィーを掲げろよ」 ユルゲンにも同じことを言った。同じ答えが返ってきた。もちろん、トロフィーを掲げるのは僕にとって大きな栄誉だ。だが同時に、あの瞬間、トロフィーを勝ち取ったことだけで自分には十分だという気持ちがあった。トロフィーを授与されることをずっと目指して努力してきたのだが、その重みが肩からすっと落ちてしまった。勝っただけで十分だ。それが僕の夢であり、望みだった。達成することがすべてだった。 結局、ミリーと監督の言葉を受け入れた。それに正直に言えば、トロフィーを受けとる役目がそれほど嫌だったわけでもない。欧州サッカー連盟のアレクサンデル・チェフェリン会長から、大きな耳(ビッグイヤー)のついたトロフィーを手渡された。彼が「おめでとう」と言うのは聞こえたが、僕の意識はべつの場所にあり、すぐに向きを変えて、選手たちが待っているほうのステージに歩いていった。手にしたトロフィーを、チームメイトたちに見せたかった。背中ではなく、正面からみんなに見せたかった。喜びに満ちた彼らの顔を見たかった。 トロフィーをチームメイトたちのほうへ持っていき、足踏みをしてから正面を向くと、頭上にトロフィーを突きあげた。僕はそれまで、あんなふうに叫び、咆えたことはなかった。思いのたけをすべてそれにこめた。そのあと、ピッチの周囲をまわってファンとともに勝利を祝福していたとき、BTスポーツのインタビュアーであるデス・ケリーに対して、自分の気持ちを語った。そのなかで、僕はこう言った。「僕のキャリアはずっと困難だった。でも僕はやりつづけた――それに、このチームもやりつづけたんだ」