2029年に2200億円まで市場拡大の予測も、「宇宙デブリ除去」で世界から注目を集める日本の技術のすごさとは
民間企業によるロケット開発、人工衛星を利用した通信サービス、宇宙旅行など、大企業からベンチャー企業まで、世界のさまざまな企業が競争を繰り広げる宇宙産業。2040年には世界の市場規模が1兆ドルを超えるという予測もあり、成長期待がますます高まっている。本連載では、宇宙関連の著書が多数ある著述家、編集者の鈴木喜生氏が、今注目すべき世界の宇宙ビジネスの動向をタイムリーに解説。 第10回は、2029年の市場規模が2021年比で約1.8倍に成長すると予測される「宇宙デブリ」関連ビジネスの最新動向、世界から注目を集める日本企業・アストロスケールが開発するデブリ除去実証衛星の特徴を紹介する。 ■ 非協力的なデブリを捕捉する 2024年6月、アストロスケールホールディングス(以下、アストロスケールHD)の日本子会社の衛星が、大型の宇宙デブリ(宇宙に漂うごみ)を追跡し、至近距離まで接近することに成功して話題となった。世界にも例のない高度な技術を持つ同社は、アメリカ、イギリス、フランスの政府機関とも契約を交わし、資金調達額も着実に増加している。 調査会社フォーチュンビジネスインサイトによれば、宇宙デブリの監視や除去に関連する市場は、2021年の8 億 6640 万ドル(約1222億円)から2029年には1.8倍の15億2770万ドル(約2200億円)に拡大すると見込まれる。 また、今年5月には欧州、10月にはアメリカにおいてデブリ規制が強化され、デブリ除去衛星の需要は世界的に高まると予想される。その技術は衛星への燃料補給にも応用できるため、衛星運用コストの大幅な低減につながる可能性もある。
アストロスケールの商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」は、2024年2月に打ち上げられた。同機がターゲットとするデブリは、JAXAが2009年に打ち上げたH-IIAロケットの第2段。衛星ADRAS-Jはその約50m手前まで接近すると、デブリを中心に360度周回しながらその損傷状態などを観測し、撮影した。 運用が停止された宇宙機は、一般的には電波を出さない。制御されない状態で、秒速7km以上の速度で移動し、しかもその軌道は変化する。また、従来の宇宙機は回収されることを想定していないため、ドッキング機構も搭載していない。こうした厄介な宇宙物体を「非協力デブリ」という。 非協力デブリを捕捉するには、まずはその軌道と絶対位置を予想し、衛星を打ち上げて近づける(絶対航法)。デブリに接近したら衛星の搭載センサーを駆使して、さらにデブリに近づく(相対航法)。このプロセスを実行するには極度に高度な技術が必要とされ、非協力デブリに対する成功例はADRAS-J以外にない。 今回のフェーズ1は、衛星ADRAS-Jによるデブリへの近接と状態調査を目的とし、フェーズ2では、2026年度以降に新たに打ち上げる「ADRAS-J2」によってデブリを捕獲し、実際に大気圏に再突入させて除去する予定だ。 ■ 各国政府からのオーダー アストロスケールは、イギリス、アメリカ、フランス、イスラエルに現地法人を持ち、それら子会社が各国政府機関からのオーダーを続々と受注している。 2023年9月にはアメリカのアストロスケールUSが、アメリカ宇宙軍から燃料補給衛星のプロトタイプ(APS-R)の開発を2550万ドル(37億7400万円、税抜、後日増額)で受注。アストロスケールUSを中心とするチームもこのプロジェクトに約1200 万ドル(約17億8000万円)を出資し、2026年までに試作機を提供する予定だ。 2024年7月には、イギリスのアストロスケールUKがワンウェブと、通信衛星除去の実証ミッション(フェーズ4)を契約。その実施に向けてアストロスケールは、運用が終了した衛星を磁石で誘導する衛星「ELSA-M」を開発する。ワンウェブにはイギリス政府が出資していることから、その契約金1395万ユーロ(23億9940万円)は、イギリス宇宙庁(UKSA)と欧州宇宙機関(ESA)が支払う。 また、2024年9月には同じくアストロスケールUKが、イギリスのデブリ除去ミッション「コズミック」の開発継続をイギリス宇宙庁と契約した。この計画では衛星ELSA-Mの進化版が投入され、衛星2機を除去する予定だ。 その契約額は195万ポンド (3億5300万円、税抜)だが、今後、後続フェーズの公募が予定されており、同プロジェクトの総予算は最大6000万ポンド(98億4000万円)に達する可能性がある。 世界各国からのオーダーを受けながら、アストロスケールは今年6月、東証グロース市場への上場も果たしている。日本における宇宙機開発スタートアップの上場は国内で3社目であり、執筆時(2024年10月末)の時価総額は1164億2700万円、資金調達の総額は645億円に及ぶ。