2029年に2200億円まで市場拡大の予測も、「宇宙デブリ除去」で世界から注目を集める日本の技術のすごさとは
■ 欧米が強化するデブリ規制 アストロスケールが注目を浴びているのは、宇宙デブリに対する世界的な規制が強化されていることも背景にある。 2023年11月、ESAの主導によって「ゼロデブリ憲章」が発行され、2030年までに新規のデブリをゼロにするための指針が示された。デブリニュートラルを目指すこの憲章は法的拘束力を持たないが、ESAをはじめ、イギリス、ドイツ、オーストリアを含む欧州12カ国の他、メキシコ、ニュージーランドなどが署名。宇宙関連機関や宇宙開発企業、天文学協会など、世界の96組織が署名し、27組織が支持を表明している(2024年10月末時点)。そこにはアストロスケールUKも含まれる。 また、2024年9月30日からは、アメリカにおいて「5年ルール」の施行が開始されている。FCC(連邦通信委員会)が採択したこの規制では、地表からの高度2000km(低軌道)以下にある衛星を運用停止した際、5年以内に大気圏に再突入させることを義務付けている。このルールの施行以前は25年以内と規定されていため、大幅な猶予短縮と言える。 ■ 低軌道のデブリは大気圏に落とす 地球を周回する軌道は高度によって区分され、高度0~2000kmは低軌道(Low Earth Orbit, LEO)、高度2000~3万6000kmは中軌道(Middle Earth Orbit, MEO)、3万6000kmよりも高い軌道は高軌道(High Earth Orbit, HEO)と呼ばれる。 ISS(国際宇宙ステーション)は400km程度の軌道を航行し、米スペースXのスターリンク衛星は300km台と500km台、地球観測衛星は高度600~800kmの軌道に多い。また、高度約60~100kmで切り離される第1段ロケットは、通常は海上に向けて降下するが、宇宙機を軌道に投入する上段は、さらに上昇して加速するため地球周回軌道に入るケースが多い。 低軌道(高度200km付近の熱圏)には希薄ながら大気があるので、そこを航行する宇宙機は大気の抵抗によって機速が落ち、その結果高度が下がるので、やがて大気圏に突入して燃え尽きる。しかし、それには非常に長い時間がかかる。そのため不必要となった宇宙機は、エンジンを噴射することで機速を落とし、降下させる必要がある。こうした噴射を軌道離脱噴射という。 ただし、従来のロケット上段にはそのシステムを搭載しないものが多く、そのためデブリと化した宇宙機が数多く低軌道に留まっている。ISSではこれらのデブリを避けるために、2023年の1年間で5回のデブリ衝突回避マヌーバを行った。今回のアストロスケールが開発するデブリ除去実証衛星は、こうしたデブリを大気圏に引きずり落とすための機体だ。