日本の「世界自然遺産」がさらされている“2つの危機”とは?
日本の自然が世界自然遺産に初めて登録されてから約30年。全部で5カ所ある登録地やその魅力、それぞれどんな課題に取り組んでいるのかを探ってみましょう。 小中学生向けのニュース月刊誌『ジュニアエラ2024年4月号』(朝日新聞出版)からお届けします。 【写真】世界自然遺産の魅力がつまった写真はこちら(全7枚) ■屋久島の訪問客 島の人口の30倍に 鹿児島県の屋久島と青森・秋田両県にまたがる白神山地が、日本で初めて世界自然遺産に登録されてから30年が過ぎた。その後の登録もあり、国内の自然遺産は5カ所となった。それぞれの抱える事情や経緯は違うが、5地域は、連携して課題解決や魅力発信に取り組もうと動き始めた。 屋久島と白神山地は1993年12月、世界遺産に登録された。屋久島の周囲は約130㎞。中央に2千m級の高山が位置し、亜熱帯から亜高山帯までの自然植生と生態系が連続して見られるのが特徴だ。ただ観光客は、樹齢数千年といわれる縄文杉などに集中した。 遺産登録後の2007年度の訪問客は、島の人口の30倍にあたる約40万人を記録。地域住民の生活や自然環境、景観などに悪い影響を与えるオーバーツーリズムが心配された。このため町が公認するガイド制度を採り入れるなど、エコツーリズムに力を入れ、その後の遺産地域の一つのモデルとなった。
■白神山地の魅力と今後の課題 白神山地は、原生的なブナ天然林が世界有数の規模で分布していることが評価された。遺産地域への立ち入りが制限されたこともあり、04年度に8万人以上だった入山者は、22年度は約1万6千人にまで減った。いくら自然の価値が高いからといって、人から遠ざけていたのでは意味がない。保護と利用の両面からあり方を考えていく必要があるだろう。 遺産地域が青森県の西目屋村など3町村、秋田県の藤里町にまたがることもあって地域での一体的な取り組みもなかなかできなかった。このため関係市町村などは11年、環白神エコツーリズム推進協議会を発足させた。地域全体で協力した白神の魅力の発信に力を入れている。 白神山地は手つかずの自然だと思われているが、縄文時代から人が暮らし、林業や鉱業が営まれてきた。江戸時代の紀行家、菅江真澄も炭焼きなど人々の営みを記録に残している。 世界自然遺産を正しく理解するには、人とのつながりを合わせて継承していくことが重要だ。屋久島では、11年から地元の語り部が歴史や文化、産業などを案内する「里のエコツアー」を実施している。白神山地も、訪れた人たちにもっと文化的、歴史的な意義を伝える必要があるだろう。