相次ぐ中小企業M&Aのトラブル…悪質な業者と買い手の存在、政府が対応焦るワケ
「早くリタイアしたいのに、後継者が見つからない」──全国で300万社を超える中小企業。その多くが、経営者の高齢化と後継者不足に直面しています。政府が打開策として推しているのが、ほかの企業に買収してもらい、従業員の雇用を含めて事業を受け継いでもらうM&Aです。しかし、実態としてはトラブルが絶えないようです。ここでは中小企業のM&Aの現状と課題、さらには悪質業者の存在について解説します。 【詳細な図や写真】売買両サイドから仲介業者が受け取る手数料を透明化する(出典:中企庁)
なぜ中小企業のM&Aが爆増しているのか
1ページ目を1分でまとめた動画 M&Aというと、上場している有名な企業や海外のファンドがからむ、数千億円~数兆円規模の超大型案件を思い浮かべるかもしれません。 それに比べるとニュースで取り上げられることは少ないものの、実は中小企業の世界でもM&Aは急激に増えているのです。 中小企業庁によると2022年度には、民間の支援機関を通じて4036件のM&Aが実現。国が設置する公的相談窓口の実績と合わせると5717件に上り、2014年度と比べ実に15.8倍に増えているのです。 なぜ、これほど突然に中小M&Aが増えたのか。背景には、後継者不足の問題があります。 新型コロナウイルスが感染拡大した2020年以降、国内企業の「休廃業・解散」は年5万件近くで推移しています(「休廃業・解散」は、債務超過や業績不振で経営を断念する倒産と違い、経営者の自主的な判断で事業を止めること)。その中でも、利益が出ているのに会社をたたむ、いわゆる「黒字廃業」の比率が半数を超えています。 また、今後廃業する予定の企業にその理由をたずねたところ、「後継者不在」が約3割に上りました。 要するに、「会社自体は利益を上げているのに後継者がいないため、しかたなく廃業する」ケースが増えているのです。
ためらうのも仕方がない?悪質なM&Aでのトラブル
後継者不足に悩む中小企業の救いの手の1つとして、M&Aによる第3者への事業承継があります。 ただ、長年経営してきた会社を第3者に受け継いでもらうにあたっては、トラブルも起きています。たとえば、M&Aにおけるクロージング(譲渡対価の支払いや実質経営権の移転)が完了したのに、売り手側の経営者保証が買い手側に移転されなかった、といったケースなどです。 経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の連帯保証人となり、企業の債務を保証する仕組みです。経営権の移転ができても、経営者保証が売り手側に残れば、会社が倒産した場合の債務は売り手側が負うことになります。買い手側が会社の資産を食いつぶした後、会社を倒産させ、売り手側の経営者が個人破産に至る、といったトラブルにつながりかねません。 トラブルの種は経営者保証だけではありません。ほかにも、M&Aが成立した時点で一譲渡金額を低額に抑えたかわりに、一定期間後に退職慰労金を多めに支払う契約を結んだにもかかわらず、支払期日が過ぎても一向に支払われなかった事例もあります。 経営者にとってM&Aは生涯に何度も経験するようなものではなく、プロの仲介業者からアドバイスを得て進めたいところ。ただ、売り手と買い手をマッチングさせる仲介ビジネスが拡大する中で、中小企業の経営者からすれば「どの業者に任せればいいのか分からない」という状況になっているのが現状です。 仲介業者に支払う手数料相場が見極めにくく、業界自体に不信感を抱いてしまうことも、経営者がM&Aをためらう大きな要因となっているといえます。 そこで、悪質な業者や買い手を排除し、中小企業の経営者が安心してM&Aによる事業承継を進められるようにするには、仲介ビジネス全体の信頼性向上が欠かせません。そこで、中小企業庁が8月、ガイドラインを改定し、仲介業者に対する締め付けを強化しました。 その具体的な中身について、見ていきましょう。