相次ぐ中小企業M&Aのトラブル…悪質な業者と買い手の存在、政府が対応焦るワケ
ガイドライン改定の中身とは
改定ガイドラインの1番の柱は、仲介業者に「明朗会計」を求めているところにあります。 具体的には、手数料の詳細な算定基準や、仲介業者が提供する具体的な業務を明示するよう要求。また、担当者の保有資格(公認会計士、税理士、中小企業診断士など)や経験年数・成約実績を説明することも求めています。 政府側の対応も明記されました。中小企業庁が運用する「M&A支援機関登録制度」のデータベース上で、手数料の算定基準を公表するとともに、今後は、最低手数料の水準や報酬基準額の推移などで売り手側が簡単に検索できるようにするということです。 ほかにも、改定ガイドラインでは仲介業者に対して以下のようなことを求めています。 ・仲介者は売り手と買い手に対して中立・公平な立場であり、どちらか一方への利益を図るような利益相反行為をしてはならない。 ・買い手側から追加で手数料を取得して便宜を図ったり、リピーターとなる依頼者を優遇したりすることを禁止事項として定め、仲介契約書に明記することを「義務」とする。 ・経営者保証を買い手に引き継がないトラブルを防ぐため、最終契約では解除や移行を買い手側の「義務」として位置づけ、義務が果たせない場合の補償条項などを盛り込む方向で調整する。 ・買い手側の経営者保証に係る意向を丁寧にヒアリングし、弁護士や経営者保証を提供する金融機関などに対し、事前に相談する選択肢があることを説明しなければいけない。 ・悪質な買い手を排除するため、買い手側に対する調査を実施し、調査結果を売り手に報告する。 ガイドラインに違反した仲介者は、中小企業庁が運営する「M&A支援機関登録制度」での登録を取り消し、社名を公表することも視野に入れています。この改定版は、来年1月から適用される見通しです。業界団体「M&A仲介協会」も国と歩調を合わせる格好で、悪質な買い手の情報を共有する「特定事業者リスト」の運用を開始します。
中小企業を存続させるために…
中小企業は国内の雇用全体の実に7割を占め、日本経済の屋台骨ともいえる大切な存在です。そんな中小企業の事業承継が円滑に進まなければ大きな打撃となります。 日本の中小企業が業者の食い物にされることなく、仲介を含めた売買のエコシステムが健全に拡大できるかについても、これを機にしっかりと注目しておきたいところです。
執筆:三上 剛輝、編集:ジャーナリスト 川辺 和将