優勝の歓喜の裏でメラメラ燃える悔しさ(Wリーグ・富士通レッドウェーブ 藤本愛妃)
大事なときこそコンディションを崩してきた不運な過去
昨シーズンのWリーグ チャンピオンである富士通レッドウェーブは開幕4連勝、2連覇に向かって上々の滑り出しを見せた。上位8チームで争われるプレミアは接戦が多い中、大型補強を行ったアイシン ウイングスとの開幕戦はいずれも80点に乗せ、相手を50点台に抑えて快勝。続くトヨタ自動車アンテロープスも51点、49点とディフェンス力で振り切り、2週連続2連勝。 トヨタ自動車との2戦目、前半終了ブザーとともにシュートを決めた藤本愛妃。その活躍に対して感想を求めると、「前半だけでした。後半はもう……やっちゃいました」と顔を覆う。 藤本がレギュラーシーズンを全うしたのは2020-21シーズン、ルーキーのときだけ。その後は、なぜか「大事なときや調子が良いときにケガしてしまって…」と不運が続く。昨シーズンも開幕前に足を捻挫し、出遅れてしまった。開幕1ヶ月後から復帰を果たすが、ファイナルでは第2戦の1試合に終わり、コートに立ったのも3分程度。出場機会に恵まれなかったのも、「扁桃炎持ちなんですが、またタイミング悪くそのときに熱が出やがって…」と顔をしかめて悔やむ。発熱によって練習への参加もままならず、無念のプレーオフだった。 町田瑠唯を筆頭に、富士通ひと筋に戦ってきた選手たちにとっては初優勝。藤本もそのひとりであり、たった3分ではあったがファイナルのコートに立ち、歓喜の輪に入った。少なからずとも成功体験を得られたかどうかを問えば、彼女の胸の内は正反対だった。 「試合に出ていれば自信になったと思いますが、自分は悔しかったです。チームとして優勝しましたが、試合に出ている選手は固定されていたので、出られなかったメンバーたちは悔しい思いをしていると思います。そのときに『もう1回やってやるぞ』と、ファイナルで優勝したのをベンチで見て感じていました」
チームのカラーを変えるシックスマンの役割
決意を新たにコンディション良く迎えた2024-25シーズン。まだはじまったばかりだが、スタッツの大きな変化に目が止まる。「アシストは元々得意としていて、練習中ではかなり出ていました。でも、今までの試合では出せていなくて、逆に最近はいつも通りの自分って感じです」とこれが藤本である。昨シーズンのアシストは0.9本だったが、2戦は4本、3戦目は3本と得点を演出する。 これまでも武器としてきた「ドライブやジャンパーは、テミ(ジョシュア ンフォンノボン テミトペ)とは違う得点の取り方で、チームに影響を与えられるようにがんばりたいという思いです」と持ち味を発揮する。藤本はシックスマンとして、センターのジョシュアを休ませるのが役割のひとつ。サイズもプレースタイルも違うことを利点とし、「自分が出たときは機動力を武器に、相手を嫌がらせることを意識しています。テミとは違うオフェンスをして、自分の良さを出していきたいです」と自信を持ってゲームに変化をもたらせる。それが、トヨタ自動車との2戦目で前半終了間際のブザービーターにつながった。 さて、「やっちゃいました…」と反省する後半。第4クォーター開始早々にフリースローを2本とも外し、次のポゼッションではターンオーバーをして空回り。流れが相手に傾きかけたところで交代を告げられた。しかし、藤本のハッスルプレーが今シーズンの富士通にとっては必要であり、積極的に行ったからこそフリースローをもらえた。その内容も無我夢中でドライブをしたわけでもなく、ディフェンスの動きを見て確信を持って仕掛けていた。「やりたいことは表現できたとは思います。フィニッシュは別にして…」と良くも悪くも反省しながら、強固な信頼を勝ち取りに行く。 ENEOSサンフラワーズでの経験と実績をチームに植え付け、昨シーズンの優勝へ導いた宮澤夕貴と林咲希の存在は大きい。「言葉ではなく、日頃の行いから学ぶことが多いです。日々、一番練習している姿を見て、さすがだなと思いましたし、自分たちも真似してワークアウトを必死に取り組んでいます。自分たちよりも下の選手には言葉で伝えてくれていますが、中堅の私たちは行動から学んでいます」という先輩たちの背中が富士通のスタンダードを引き上げていた。 アーリーエントリーを含めて6シーズン目となる藤本も、富士通で築きあげてきたベースがある。「チームルールについては、移籍してきた選手たちよりも自分たちの方が理解しています。移籍してきたベテランから経験を話してもらいながら、富士通のルールについては私たちから伝えることができていました。それによって、すごく良いコミュニケーションが取れていました」と振り返り、優勝に向かって行くチームのために貢献していた。 あらためて昨シーズンの優勝に対する反骨心とともに、少なからず自信に変えて、今シーズンこそチームの輪の中心で笑いたい。そのためには、健康第一が絶対条件である。
泉誠一