不妊外来から見える治療の現状(1)30代患者が増えた保険適用がプラスに
少子化が止まりません。11月5日に厚生労働省が公表した今年上半期の出生数は、32万9998人、昨年の同じ時期と比べ2万2242人も減少しました。このままだと、今年の出生数は70万人を割り込むのが確実視されています。 【男性不妊】世界中で精子の数が減少している…40年で60%減との報告も 厚労省は少子化対策の一環として、2022年4月から不妊治療の保険適用を認め、人工授精(一般不妊治療)や、体外受精(生殖補助医療)などが条件付きとはいえ、保険で行えることになりました。 保険適用開始から2年、不妊治療の現場はどう変わったのでしょうか。 多くの不妊患者に向き合ってきた生殖医療専門医の大石元・国立国際医療研究センター産婦人科診療科長は、現状をこう話します。 「費用負担が減ったことで若い人が治療を受けやすくなりました。以前は費用を貯めてから40歳前後で受診する人が多かったのですが、30代前半の患者さんが増えました。35歳を過ぎると妊娠成功率は下がりだします。30歳前後で治療を始められるようになると成功率も上がりますから、患者さんにとって保険適用はプラスに働いたといえます」 体外受精を自費で行うと、施設によるが6回で200万~300万円程度。それが保険適用で3割負担、さらに高額療養費制度を使うと数万円で済む場合もあり、費用の捻出が難しい若い人でも治療に取り組めるようになったというわけです。 不妊の原因はさまざまですが、大きく分けると卵子や卵管といった女性側に問題がある場合と、男性の精子に問題がある場合、さらに原因不明の場合があります。 「原因はほぼ男女半々、女性側3割、男性側3割、両方に原因がある場合が3割といったところです。検査で卵子や卵管、精子などに異常が見つからない原因不明の不妊症では、女性の年齢が影響している場合がほとんどです」(大石医師) 不妊治療の成功率は年齢に大きく左右されます。体外受精の保険適用が43歳未満とされているのも、これ以上だと妊娠が難しくなることがはっきりしているからです。 大石医師によると、最近の不妊症の増加には出産年齢の高齢化が大きく影響しているとのことです。 実際、1990年には第1子の平均出産年齢は27歳でしたが、2013年は30.4歳、23年は31歳(令和5年厚生労働省調査)です。 また、不妊検査や治療を行った夫婦の割合は02年では12.7%だったものが、21年には22.7%と19年間で10ポイントも増加しているのです(内閣府「男女共同参画白書」)。 「30代で第1子を産むのが一般的ですから、どうしても治療開始年齢が高くなってしまいます。できるだけ早く治療を開始した方が成功率は高くなります」(大石医師) 保険適用が不妊治療のハードルを低くし、治療開始年齢を早めたことは確かです。少子化の歯止めに結びつくことが期待されます。 =つづく (医療ジャーナリスト・油井香代子)