加藤一二三・茂木健一郎『ひふみん×もぎけん ほがらか脳のすすめ 誰でもなれる天才脳の秘密』(レビュー)
加藤一二三・茂木健一郎『ひふみん×もぎけん ほがらか脳のすすめ 誰でもなれる天才脳の秘密』ひふみんのほがらか名言10選
イラストレーション=いらすとや 写真=高木康行 14歳でプロの棋士となり、「神武以来(じんむこのかた)の天才」と言われた棋士の加藤一二三名人(ひふみん)。そして、さまざまな視点から脳にアプローチし、人間を包括的に分析する脳科学者の茂木健一郎(もぎけん)さん。頭の回転の速さだけでなく、豊かな創造性を誇るこの二人が「天才脳」について語り合った対談本『ひふみん×もぎけん ほがらか脳のすすめ 誰でもなれる天才脳の秘密』が8月26日に発売されます。「“天才”と呼ばれる人は、たいていいつも機嫌がいい」と茂木さん。まさにそれを体現するかのように、いつも無邪気で天衣無縫な加藤さんの名言から、常識にとらわれない天才脳をひも解きました! ひふみんのほがらか名言 10選 いつもニコニコご機嫌なひふみんこと加藤名人。そんなひふみんのほがらか名言を本書からピックアップして茂木さんが分析。天才脳ののびやかな思考回路に迫ります。 僕のひとつの興味はね藤井聡太。 (1章 藤井聡太と対戦して より) 藤井聡太さんのデビュー戦の相手は、じつは加藤さんでした。そのとき、藤井さんの異能ぶりはすでに現れていたそうで、加藤さんは今も藤井さんの将棋を見るとわくわくするとか。藤井攻略法も練っていると言いますから、二人の対局、また見てみたいですね。 イエス・キリストに、さすがに角落ちだったら勝てると思う。 (2章 天才脳は究極のポジティブシンキング より) この言葉、いいですね。加藤さんは敬虔なクリスチャンです。でも、さまざまな奇跡を起こしたキリストに対しても角落ちだったら勝てるんじゃないかと考えるところに、加藤さんの勝負師としての真髄を見た思いでした。
彼が何を僕から得たかというと、たぶん、吹っ切る心だと思うんです。 (5章 天才脳はきっかけをつかむのがうまい より) 後輩の棋士は、加藤さんから吹っ切る心を学んで強くなったそうです。天才脳には、この「吹っ切る心」が大事なんですね。「型にはまらず、逸脱しつづける」ことで、将棋の世界からバラエティ番組に進出した加藤さんは、まさにそれを体現してる人だと思います。 験を担ぐというよりは、ネクタイを長くしておくことによってテンションが上がるんですね。 (3章 天才脳は独特のアプローチ より) 加藤さんのトレードマークといえば、対局のときの長いネクタイ。これをすると「自分は今、勝負しているんだ」という意識が芽生えるそうで自己暗示の方法論だったんですね。脳って暗示にかかりやすいので、非科学的なようで、じつは脳の科学に則っているんです。 青い空を見上げてね、この大空のように大きな将棋を指したいと思っていた。 (4章 天才脳は寛容 より) 加藤さんは、将棋と人生は同じだと考えているんだと思います。もともと将棋や囲碁は、軍事的な戦略のシミュレーションだったことを考えると、そこに全世界があって、宇宙の営みとか、神の御心に添ったものを指したいと思うのは自然なことかもしれないですね。 プロの棋士の研究は、主に頭の中だけでやるんですよ。将棋の盤と駒は使わない。 (6章 天才脳はとても緻密で理性的 より) プロの棋士は、頭の中でエア将棋ができるということ。すごいですね。また加藤さんは、ご自身の公式戦の対局2505回の棋譜もほとんど頭の中に入っていると言います。さらに単純な記憶だけでなく、ゲームを構築する創造性もあるわけですから、まさに天才モーツァルトと通じるところがあると思います。 対局中にショートケーキを三つも食べていたのには意味があったんですね(笑)。 (7章 天才脳は安全基地を持っている より) 加藤さんは、かつて中原(誠)名人とのタイトル戦でおやつにショートケーキを3つ注文して、全部自分で食べたとか。棋士が甘いものを欲するのは、脳に栄養補給するためでもあります。腸から吸収された栄養によって脳のドーパミンの分泌が活性化され、思考力が高まるんですね。ちなみに中原さんは、ひとつは自分にくれると思っていたらしいです(笑)。