<ポスト道長>を画策した三条天皇。秘薬「金液丹」に頼るもまさかの結末に…妍子との娘・禎子の物語にいいように使われた「三条の悲劇」について
大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。ドラマの放映をきっかけとして、平安時代にあらためて注目が集まっています。そこで今回は三条天皇の最期について、先日『女たちの平安後期』を刊行された日本史学者の榎村寛之さんに解説をしていただきました。 『光る君へ』次回予告。万策尽きた三条天皇に「奥の手」を助言する実資。「大当たりだったわ」とつぶやく倫子の母・穆子。そして月を見上げる道長が詠む歌は… * * * * * * * ◆三条天皇と道長 ドラマ内で病を原因として、道長から譲位を迫られている三条天皇。 そもそも彼の即位は、史実としての道長にとって、やりにくいことが多かったように思われます。 一条天皇であれば、父の兼家や兄の道隆が摂政として敷いてくれたレールに乗ってコントロールしていけばいいので、少々のトラブルは何とかなったのでしょうが、三条天皇とはそれほど親しくもない。しかもあの花山天皇の弟です。 17歳で即位した花山天皇でも、自分の側近をまとめて政治改革を考えたのですから…。 36歳になった三条天皇が何を言い出すか、ある意味、固唾を呑んで観察していたと思います。
◆<ポスト道長>を見据えた三条 道長よりも10歳若かった三条天皇は、<ポスト道長>を視野に入れていたようで、即位するとすぐに道長と源倫子の次男・教通、源明子との次男・顕信を抜擢しようとします。 教通は、のちに摂政・関白・太政大臣を歴任することになる頼通の同母弟。 その教通が、三条朝では、明子との長男で異母兄にあたる頼宗を飛び越えて権中納言、つまり政策決定会議のメンバーになりました。 三条によるこの抜擢は、道長への贔屓の一方で、兄弟間で牽制させようという下心もあったのでしょう。道隆・道兼・道長の同母三兄弟の確執は当時まだ記憶に新しい所だったからです。 顕信は、藤原道隆の孫で、伊周の長男にあたる道雅と衝突。その従者同士が争った記録が『小右記』に見られます。 拙著『女たちの平安後期』でも触れましたが、藤原道隆と花山天皇には、一族郎党ぐるみのかなりこじれた関係がありました。 道隆直系である道雅とぶつかった鼻息の荒い公達・顕信を、花山の弟・三条が蔵人頭に抜擢するのは、「利用しがいのあるやつ」と考えたからとも思えます。 もちろん子供の抜擢は悪い話ではなかったのですが、そこは老獪な道長。教通の昇進を受け入れつつ、顕信の蔵人頭就任はことわります。 そして立身の道を断たれたと考えた顕信は即断し、世をはかなんで出家してしまう。 このあたりは『光る君へ』でも触れられていたとおりです。
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