<ポスト道長>を画策した三条天皇。秘薬「金液丹」に頼るもまさかの結末に…妍子との娘・禎子の物語にいいように使われた「三条の悲劇」について
◆禎子の物語の前振りのように扱われた「三条の悲劇」 そのほかにも、『大鏡』の三条天皇の譲位後の記述にはおかしな所があります。 三条上皇が道長の次女、藤原妍子との娘・禎子内親王を大変かわいがり、その髪をたぐって「こんなに美しい髪が見えないのが残念だ」という場面があるのですが、三条天皇が亡くなった時点で禎子内親王はまだ数え年で5歳。 まだ裳着の前の子供時代なのでそんなに長いはずはないのです。ここにも見え透いた嘘があり、三条天皇の悲劇が、娘の禎子の物語に続く前振りのように使われています。 さらに『大鏡』では、道長邸で養育されていた禎子が来るたびに、三条上皇が所領の券(権利書)をおみやげに持たせたと記されています。そしてまだ幼児の禎子がその所領の券を大事にしている様子を見て、道長が「賢い子だ」と感心した、というエピソードを載せています。 『小右記』によれば、禎子が産まれた時、男子ではなかったので不機嫌だった道長ですが、禎子が裳着をむかえる時にはすっかりお気に入りの孫になっていました。 『大鏡』の記事はその間のエピソードということになり、禎子はいわば三条天皇と道長の中を仲介したかのように書かれているのです。
◆禎子が冷泉天皇の系統を代表する存在に 三条天皇は譲位にあたり、東宮時代以来の本妻だった皇后藤原すけ子(すけの字は女偏に成)との長男・敦明親王を、新帝後一条天皇の東宮に就けることを道長に確約させます。 実際、東宮になった敦明親王でしたが、その時すでに23歳。後一条天皇(藤原道長の孫、彰子皇太后の子)より14歳も年上と、父を上回る歳の差の東宮となります。 そのため、摂関家の後見も得られそうにないこともあり、一年ほどで東宮を辞退して准太上天皇の待遇を受けることになります。 そして、その時すでに三条上皇はこの世におらず、また同母妹で伊勢斎王として三条天皇を支えていた当子内親王も、あの藤原道雅との恋が発覚したために父上皇の逆鱗に触れ、出家してしまいます。 こうして、時勢に翻弄された三条上皇は悲しい最期をむかえ、冷泉天皇の系統を代表するのは、道長の孫・禎子内親王ということになっていくのです。
榎村寛之
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