「かつては普通の生活商店街だった」――横浜中華街165年の歴史を辿る
東日本大震災、コロナ禍などでゴーストタウン化するも呉さんの店の売り上げが落ちなかった理由
2011年の東日本大震災、そして2020年から2023年までのコロナ禍では、一時期横浜中華街全体がゴーストタウン化した時期がありましたが、それでも呉さんの店「一楽」では、特に昼間の売り上げは全然落ちなかったとも。 「『中華街大通りに店があれば絶対大丈夫』とは思わず、僕の代になってから地道な地域密着型営業に変えたからです。確かに観光客が多く訪れる横浜中華街ですけど、それに甘えずに、むしろ近隣で日々を過ごすサラリーマンや地元の人たちに好かれる店にするようにし、他店にはないメニューをいろいろ出すようにしました。そして、家族経営の良さみたいなものを知ってもらえるようになると、忘年会、歓迎会、何かの打ち上げみたいな飲み会でうちを使ってもらえるようになりました。つまり、確固たる母数は、常連さんの数です。店によって考え方は異なるでしょうけど、うちの店ではそんなふうに考え現在に至っています」(呉さん)
よく聞く「横浜中華街のどの店に入って良いかわからない問題」の答えは…
これだけ情報が盛んになり、娯楽や観光スポットが細分化された今を思えば、至極真っ当な考えのように思います。他方、何も横浜中華街が「保守的であるべし」と言っているわけではなく、特にスマホが浸透して以降、横浜中華街発展会協同組合では、地元のイベントなども強く打ち出し告知するようにし、広く横浜中華街に親しんでもらおうという発信も熱心に行うようになりました。 「毎年の横浜中華街の催しの春節は、実は38年前から開催していたものでした。しかし、どうも情報発信が下手で近年まで地元の人にしか伝わらなかったところは否めません。こういった横浜中華街全体の広報は今後より一層発信に力を入れたいし、多くの人に訪れていただきたいと思っています」(呉さん) 横浜中華街の165年にも及ぶ長い変遷と、エリアの一角で中華料理店を営む呉さんのリアルな話を聞くことができました。 最後に、ごくごく素朴な疑問であり、横浜中華街を訪れる観光客の多くがいつも迷う問題についても聞きました。それは「横浜中華街にはいくつもの中華料理店があって、どの店に入って良いかわからない」というもの。呉さんは笑ってこう答えてくれました。 「でも、それこそが横浜中華街の魅力の一つだと僕は思うんです。『今日はこの店に入って当たったね』とか『失敗した。前に行った店の方が良かった』とか、そこでさまざまな話が生まれるわけじゃないですか。それだけ選択肢が多いのも横浜中華街の特徴です。複数回来ていただき、多くの人に横浜中華街に親しんでいただければ嬉しいですね。 そして、横浜中華街がさらに横浜のゲートウェイ的な存在になり、横浜の他の街にも波及させられるくらいの役割を担うようになると良いなと僕は思っています」(呉さん)
<取材・文=松田義人(deco)>