羽生結弦の4回転アクセル世界初認定と4位入賞の価値とは…「切り拓いたフィギュア界の未来」
これまで公式練習で挑んでいた4回転アクセルは、両足着氷や転倒がほとんどで、関係者の間では、「4回転アクセルはまだ試合に投入できる段階にない。成功確率は低い」という見方をされていた。 昨春から千葉の「三井不動産アイスパーク船橋」に設立されたMFフィギュアスケートアカデミーのヘッドコーチに就任した中庭健介氏は「ここまで完成に近づけたのかと驚いたし感動しました」と言う。 「ジャンプの習得には、いくつかの段階があります。選手にもよりますが、両足で立って着氷した次のステージとして、片足での転倒があります。今回は片足着氷していました。そこに価値があるんです。アンダーローテーションの中にも幅がありますが、基礎点評価(満点の80%)からすると回転はかなりクリーンに近づいたものです。この短期間でワンステージ進んだのは凄いとしか言いようがありません。この段階での練習を継続的に進めることができれば成功も時間の問題です。1000回以上跳んだとコメントしていましたが、この短期間で相当の努力を積んだのでしょう」 中庭氏は全日本の4回転アクセルと比較すると「助走も含めた構えから踏み切りまでの準備動作が減り効率化されていた」という。 転倒の影響を受けたのか。羽生は次のエレメンツである4回転サルコーでも転倒した。ここも4分の1回転不足の「qマーク」判定となりGOEはマイナス4.85とされ、開始から2つのジャンプで、9.85点しか獲得できなかったが、北京五輪用にプログラムをグレードアップさせた3回転アクセル+2回転トゥループ、3回転フリップから、後半には4回転トゥループ+3回転トゥループ、4回転トゥループ+1回転オイラー+3回転サルコー、3回転アクセルとすべてのジャンプを成功させ、FSでは全体3位となる188.06点でSP8位から4位まで躍進した。 「もちろんミスをしないってことが大切だと思いますし、そうしないと勝てないのはわかるんですけど、でも、ある意味、あの前半2つのミスがあってこその、この『天と地と』という物語がある意味、できあがっていたのかなっていう気もします」 フリーの曲に選んだ「天と地と」は、戦国武将、上杉謙信のストーリーだが、彼もまた挫折を乗り越えて武田信玄との死闘を繰り広げ天下に名を轟かせた。羽生はSP、FSのミスさえも、その演技の中の表現に取り込んだのか。 中庭氏は、「スタート地点に立つ前の動きから鬼気迫るものがありました。また、全日本は4回転アクセルに特に集中していたように感じましたが、今回はプログラムの中に4回転アクセルが溶け込んで いるかのような、演技としての取り組みも感じました。羽生選手の演技を見ていると、あっという間に時間が過ぎるのです」と分析した。