イオンのデジタル人材育成プログラム どこでも通用するスキルを身につけるには
「デジタルスキル標準」を参考に既存のカリキュラムをアップデート汎用性の高いスキル習得が可能に
――育成プログラムも、6職種×「3レベル」の人材定義に基づいて作成されたのですか。 はい。従来のABSデジタルコースのカリキュラムをアップデートする形で、6職種×「3レベル」のクラスを作りました。まずはリニューアルの初年度となった2023年度にはそれぞれの職種のジュニアクラスを設けて、2024年度からはミドルとハイのクラスを開講しています。 6職種のカリキュラムを作成している途中で、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)がとりまとめたデジタル人材育成に必要な素養やスキルの指標、「デジタルスキル標準(以下、DSS)」を知りました。 【参考】 デジタルスキル標準|METI/経済産業省 https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/main.html DSSの二つの指標のうち、「DX推進スキル標準」ではDXを推進する五つの人材類型が定義されています。「ビジネスアーキテクト」「デザイナー」「データサイエンティスト」「ソフトウェアエンジニア」「サイバーセキュリティ」の五つのカテゴリごとにさらに職種を細分化したロールや求められるスキルが整理されており、これを企業ごとのニーズや状況に合わせてカスタマイズする形で活用ができるものなのですが、具体的な育成カリキュラムを考えていくにあたって非常に参考になりました。 DSSに準拠した理由の一つは、汎用性の高さです。現場からはすぐに実務で生かせるスキルを求められがちですが、それに合わせるとどうしても特定の事業の内容に偏ってしまいます。イオングループには小売りだけでなくデベロッパーや金融を含めたさまざまな事業があり、その中にはEコマース事業をやっていない会社もあります。そうした会社ではEコマースの現場で必要なスキルが、実務で生かしづらいという課題がありました。DSSで定められているスキルは特定の事業に寄ったものではなく、汎用性が高い点が大きいメリットだと感じたため、DSSを基に育成カリキュラムを再構築していくことにしました。 ――汎用性が高いスキルセットであることが、貴社の状況にマッチしていたんですね。 イオングループの事業領域がもっと特定分野に集中していれば、汎用性をそこまで高める必要はなかったかもしれません。例えば小売業だけをやっている会社であれば、「小売業におけるデータサイエンティスト」など、もっと事業に直結するスキルを習得できるカリキュラムを作っていたでしょう。 実際に各社からは、自社の業務に近い内容でカリキュラムを組んでほしいという要望をもらうのですが、それらにすべて応えることは不可能です。また、一つの現場でしか活用できないスキルではなく汎用的なスキルを習得することで、グループ内で人材の流動化を促進したいという狙いもありました。そのため、基本的にはDSSに準拠してカリキュラム設計をし、そこにイオングループ全体の戦略など、独自の要素を含めて構成していきました。汎用性の高い内容にしたため、本当に現場で役立つものなのかを説明する必要がありましたが、その際に明確な根拠としてDSSを示せたのも良かったですね。 社員個人にとっても、国として示している基準であることは納得感が高いのではと思います。まずはこれを身につけておけばいいという指標があることで、安心してスキル習得に取り組めます。実際に受講した社員からは、「世の中で求められている能力やレベルを知ることができた」「整理された基準に沿って自分の能力が開発できていると感じる」「学んだことを俯瞰(ふかん)できて、自信につながっている」などの声が上がっています。 ――人材の流動性という話が出ましたが、事業をまたいだ人材の異動などがあるのでしょうか。 その可能性は大いにあります。私自身、もともとコンビニエンス事業の会社にプロパーで入社し、グループ内公募制度を利用してデジタル事業に異動し、今はホールディングスの人材育成部にいます。私のように、全く違う領域に異動することもあり得ます。 領域や事業をまたいだ異動をした際は、一つの事業に特化したスキルだけでは不十分です。むしろ基盤となる業務知識やマインドセットを身につけておいた方が応用が利きやすい。DSSはそういった基本の部分が充実しているので、当社の状況にマッチしていました。 他のグループ会社の人と話すこともありますが、以前は各社の目線が異なっていて話がしづらいと感じることが多かったんです。同じ講座を受けたメンバーがグループ内で流動していくことで、同じ目線で会話ができるようになっていくことは意義の大きいことだと思います。