国内患者は300人の超希少疾患「採算取れない薬」の開発を実現させた患者の思い 診断から20年、「遠位型ミオパチー」の治療薬が世界で初めて承認
手足など体の末端の筋力がだんだん落ちてくる難病「遠位型ミオパチー」。織田友理子さん(43)は22歳の学生のころ、筋疾患の中でも患者数が極めて少ないタイプと診断された。国内推計患者は300人ほど。研究の進展で原因も分かってきたが、薬を販売しても採算を取るのが難しく、開発する製薬会社が見つからなかった。 【写真】ただ1人のための薬を作りたい…「希少疾患」に最新の医療技術で挑む
友理子さんらは「次世代に治療という希望を残したい」と患者会を設立し薬開発の必要性を訴え続けてきた。今年2月29日に薬承認の可否を議論する国の専門部会は治療薬「アセノベル」の〝承認を可とする〟という結論を出し、3月26日、世界で初めて承認された。診断を受けてから約20年。車いすで生活する友理子さんは、「この日を待ち続けました」と言葉を詰まらせた。(共同通信=村川実由紀) ▽研究成果で暗闇に光 遠位型ミオパチーは、体幹から遠い手足などの筋力が徐々に低下する病気。友理子さんが発症したのは、その中でも足首の動きに関わる筋肉の症状が出やすい「縁取り空胞型」と呼ばれる。20~30代で発症することが多く、個人差はあるが、初期にはつまずく、歩くスピードが遅い、歩き方がおかしいといった症状が出てくる。10年ぐらいで歩けなくなり、車いす生活となる人が多い。1981年に国立精神・神経医療研究センターの研究者が最初に患者を報告した。 薬開発のきっかけとなったのは、研究センターの西野一三部長率いるチームの成果だった。
2001年、海外の研究チームが症状が似ている病気の原因を報告した。GNEという遺伝子に異常があったという。その後、この海外のチームが報告した病気と、縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーは同じだと分かった。 GNEはシアル酸を作るのに関わる遺伝子。西野部長たちのチームは「シアル酸が足りなくなっているのかもしれない」と疑った。調べてみると患者の細胞ではシアル酸が必要となる機能が落ちていた。試行錯誤を重ね、シアル酸を飲ませて発症を防ぐ方法を見いだした。 2009年、この治療法をマウスで試した結果、筋力の低下などを抑えることができたと論文で発表。西野部長は「世界的に競争になっていたのですが、結果を出せたのは僕らだけ。すごくラッキーでした」と話す。 暗闇に光が当たった。ただそこからの道は険しかった。患者数が少なく開発を引き受けてくれる企業がなかなか見つからなかった。 ▽米ベンチャー企業の撤退