自治体のSDGs認証制度と渋沢栄一の「論語と算盤」
記事のポイント①東京都北区のSDGs認証制度は渋沢栄一を活用するユニークなものだ②自治体のSDGs認証・登録・宣言制度の効果と課題を分析すべき③ポストSDGsに向け自治体と企業の連携で持続可能な社会を目指せ
東京都北区は、日本の近代経済の父と称される渋沢栄一のゆかりの地だ。渋沢栄一が提唱した「論語と算盤」の精神は、SDGsの理念と深く共鳴する。北区のSDGs認証制度では、この「論語と算盤」のモチーフをロゴとして採用した。ポストSDGsと自治体の認証制度について考える。(千葉商科大学客員教授/ESG/SDGsコンサルタント=笹谷 秀光)
■地方自治体によるSDGs推進制度の価値は
地方自治体のSDGs制度には、「宣言制度」「登録制度」「認証制度」の3つがある(令和6年3月31日時点で、宣言制度: 29自治体、登録制度: 64自治体、認証制度: 6自治体)。https://www.chisou.go.jp/tiiki/kankyo/pdf/sdgs_kinyu/sengen-toroku-ninsho_list.pdf これらの制度は、異なる役割を持つ。「宣言制度」は、企業がSDGsへの取り組みを宣言することを促すもので、参加が簡単で柔軟な制度である(例:静岡市)。 「登録制度」は、SDGsに積極的に取り組む企業を登録し、一定の基準で活動を確認するもの(例:長野県、熊本県)。最後の「認証制度」は、SDGsの成果を上げた企業を公式に認証し、特別な融資制度などのインセンティブを提供するもので、北区のほか豊田市などの例がある。
■北区SDGs推進企業認証制度と渋沢栄一
東京都北区は、日本の近代経済の父と称される渋沢栄一と深い関わりを持つ地である。渋沢栄一は後半生を北区の飛鳥山で過ごし、この地で多くの財界人や政治家、学者と交流しながら、自身の経済思想である「論語と算盤」を発展させた。この考え方は、倫理と経済の調和を重視し、SDGsの理念とも共鳴するものである。 北区は、渋沢の理念を受け継ぎ、SDGs認証制度の導入にあたり、「論語と算盤」のモチーフをロゴとして採用した。この制度の導入は、他の自治体や企業にとっても参考となるモデルケースであり、全国的なSDGsの推進にも参考になる。 東京都北区SDGs推進企業認証制度は、SDGsの理念を尊重し、持続可能な経済発展に向けて積極的に取り組む企業を「東京都北区SDGs推進企業」として認証する仕組みである。 この制度は、渋沢栄一の「論語と算盤」の精神を継承し、道理と道徳に基づいた持続可能なビジネスを推進する企業を支援し、地域社会の活性化と社会課題の解決を目指している。 認証の対象となるのは、北区内に本社や事業所を持ち、SDGsへの取り組みを実践する会社や個人事業主である。認証制度では、SDGsの取り組みを「知る」から「実践」へと導くために、事業者向けのセミナーや説明会も実施している。 筆者はセミナーで講演させていただいたが、区の担当部局の方が熱心に準備し、会場では熱気を感じた。セミナーは、参加企業にとってSDGsの実践に向けた刺激となり、地域全体での持続可能な取り組みを促進する役割を果たしている。 この認証制度は、北区で事業を行う会社や個人事業主を対象に、SDGsへの取り組みを評価し認証するものである。申請は北区SDGs認証審査会で審査され、区長が最終決定を行う。認証の有効期間は3年間で、更新申請により延長が可能である。 認証を受けた企業には、SDGs推進企業としてのロゴマーク使用許可や、北区の公式ホームページや広報誌での取り組み紹介など、PR支援が提供される。勉強会や交流イベントへの参加を通じて、企業のSDGs活動を強化する機会も得られる。 さらに、認証企業は北区の低利融資制度を利用できるなど、経済的なメリットも享受できる。これにより、持続可能な経営の推進と地域貢献が促進される。