エネ基原案、幅の大きな電源構成 野心的な目標から現実路線へ 技術の進展見通しづらく
経済産業省が17日に公表したエネルギー基本計画の原案では、2040年度の電源構成見通しを従来のように細かな数字では示さず、幅のある表現にした。脱炭素につながる技術革新の進行などを予測するのが難しいことを反映し、現実的で柔軟な目標を脱炭素化の推進力にしていく方針だ。 ■再エネの普及見通せず 「前回は野心的な目標だったが、現実路線に戻ったように感じる」。エネルギー業界の関係者は新たな電源構成についてこうつぶやいた。 電源構成の数値をあいまいにした背景には、火力発電の二酸化炭素(CO2)排出削減につながる新たな脱炭素技術の革新、太陽光や風力発電など再エネの普及が40年度までにどこまで進むか見通しにくいことがある。 例えば、CO2を排出しない水素を燃料にした発電技術が進展すれば、排出量が多い石炭火力の割合を一気に縮小できる可能性がある。一方で、CO2を回収して地中に貯留する「CCS」の技術開発が進めば、石炭火力の利用をある程度許容できる。電力需給は技術革新次第でさまざまなシナリオが想定される。 「電源構成は厳密な数値でなくていい。産業立国としての土台をしっかり示すことが一番重要だ」。大手重工メーカーの首脳は理解を示す。先行きの不確実性を勘案すると、細かい数値を議論するよりは、大きな方向性をもとに官民で技術の動向を見定めながら最適解を探るしかないとの考えが産業界では根強い。 ■柔軟な政府目標望む声も 一方、電源構成策定に向けた議論で、国立環境研究所など複数機関が50年の温室効果ガス排出量実質ゼロの目標につなげるためのシナリオ分析を行った結果、40年度の再エネ比率を5~6割とする案が多かった。23年度の再エネ比率は約23%で現実との乖離は大きい。 ただ、脱炭素を急がなければ日本企業が世界のマーケットから弾き出される懸念がある。米アップルは30年までに全製品をカーボンニュートラルとする方針で、取引先にも脱炭素の取り組みが不十分なら取引を打ち切る可能性を示唆する。他のグローバル企業にも同様の動きが広がっている。 日本では企業の技術開発や投資を促すための野心的な目標設定が不十分との指摘もある。エネ基と並行して行われている温室効果ガス排出削減の目標策定に向けた議論では、政府は35年度に13年度比60%減、40年度に同73%減とする方向だ。だが、世界の気温上昇が止まらない中、三井不動産など250社以上が加盟する「日本気候リーダーズ・パートナーシップ」などはより高い目標を設定するよう求めている。
日本では政府目標を必達目標と捉えがちだが、「欧州のように高い目標を掲げて産業界を牽引しつつ、達成が難しければ修正する柔軟性があってもいい」(経産省幹部)との声も上がっている。(万福博之)