梅毒の新規感染報告件数…7県がすでに昨年1年間の累積数を上回る
国立感染症研究所は19日、感染症発生動向調査(IDWR)速報データ第45週(11月4日~11月10日)を発表した。 日本で一番感染者が多い性感染症「性器クラミジア」を甘く考えてはいけない 梅毒の新規感染報告件数は新たに181件が加わり、年初からの累計数は1万2609件となった。現在の方式で統計をとり始めて以来、過去最多を記録した前年同期の累計数1万2965件に比べて、マイナス359件となった。 この数字は第40週マイナス418件、第41週マイナス421件、第42週マイナス474件、第43週マイナス420件、第44週マイナス386件と推移している。この数字が前週より「悪化」は17都県、「変わらず」が7道県、「改善」が23県だった。 ちなみに第45週時点で過去最多の昨年を上回ったのは21都府県で、下回ったのは25道府県。上回った件数が目立つのは、神奈川、岡山など。下回りが顕著だったのは北海道、広島、大阪、福岡などだった。 なお、第45週時点で昨年1年間の累積件数を上回ったのは、秋田、神奈川、富山、石川、鳥取、島根、大分の7県。長野は同数だった。 性感染症の専門医で「プライベートケアクリニック東京」新宿院の尾上泰彦院長が言う。 「あくまでも速報値であり、確定値ではないため各種確定統計数字とは異なりますが、今年が残り8週時点で7県が昨年1年間の累積数を上回っているのは憂慮すべき事態です。新規届け出件数は全体のごく一部に過ぎません。しかも大都市に限らず地方に及んでいる。地方ではそもそも梅毒の診断・治療ができる医療施設が少ないため心配です」 地域で気になるのは、広島が大きく減らす一方で、近接する鳥取、島根が増えていること。鳥取県東部圏域では8月31日時点で昨年の報告数を越えている。島根県松江市では第37週(9月9日~15日)時点で越えている。また、広島に隣接する岡山でも新規感染報告者数が急増しており、昨年の累計を越えるのも時間の問題だ。 「九州各県が昨年に比べて減少傾向にあるなか、大分だけが増えているのも気になります。インバウンドと関連付ける向きもありますが、外国人観光客が増えているのは他のエリアも同じですから、よくわかりません」 従業員数10人以上の187の宿泊施設を対象に毎月調査している大分県観光統計調査(10月速報値)によると、10月の延べ宿泊者数は前年同月比で2.4%増(国内3.8%増、海外2.4%減)、9月速報値では前年同期比9.5%増(国内4.5%増、海外32.2%増)だった。 大分県では2024年11月1日時点での新規梅毒感染者の年代別届出件数を公表している。それによると10代3人(男性2人、女性1人)、20代22人(男性13人、女性9人)、30代12人(男性10人、女性2人)、40代17人(男性13人、女性4人)、50代11人(男性8人、女性3人)、60代7人(男性7人)、70代14人(男性7人、女性7人)となっている。高齢者への広がりが気になる。 東京の状況はどうか?「国立感染研の速報データでは東京都の第45週の累積件数は3219件で、昨年同期より46件増えています。東京都が独自集計した第45週は新規73件、年累計は3265件です。昨年第45週の東京都独自データでは年累計3209件でしたので、こちらも56件上回っています」 なお、感染研の数字と異なるのは、東京都の数字が保健所が報告を受理した件数に対して感染研の数字は医療機関が梅毒と診断した件数だから。 ちなみに東京都集計の第45週の梅毒の新規届出73件の内訳は、男性44件、女性29件。年代は10代3件、20代32件、30代18件、40代12件、50代4件、60代3件、70代1件だった。推定感染経路は66件が性的感染(同性間11件、異性間52件、両性間1件、性別不明2件)、不明7件だった。 ほかに、世界保健機関(WHO)が感染拡大の脅威を警告し、16日に米国内で初めてより重症化しやすいタイプ(クレードⅠ型=死亡率10%程度)の感染が確認されたエムポックス症は、第45週で新たに福岡で1件感染者が報告され、累計19件となった。感染が確認されたのは福岡県内在住の20代男性で海外渡航歴はないという。感染したのはクレードⅡ型(死亡率1%程度)で現在、症状は安定しているという。