睡眠を考える──「質の良い眠りには、なぜ朝のタンパク質が欠かせないのか?」
質の良い眠りとは何か? 今回は“食べる睡眠”について、睡眠改善インストラクターで、管理栄養士の篠原絵里佳氏に訊いた。 【写真を見る】よく眠るために欠かせない食べ物とは?
第2回:質の良い眠りと朝のタンパク質──一番大切なのは朝食をしっかり摂ること
「日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、先進国で最下位」という衝撃的な事実が経済協力開発機構(OECD)の調査で明らかになり、慢性的な睡眠不足に悩む人も多いだろう。2024年2月に策定・公表された、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、「食生活や運動等の生活習慣や寝室の睡眠環境等を見直して、睡眠休養間を高める」ことが推奨されているが、ずばり「これを食べればよく眠れる」という食べ物なんてあるのだろうか。睡眠改善インストラクターで、管理栄養士の篠原絵里佳氏に訊いた。 ──ここ数年、「睡眠の質を高める」とパッケージに書かれた食品を多数見かけるようになり、眠りに関する意識が高まっていることを感じます。良い眠りのために、食生活で意識したほうがいいことはあるのでしょうか。 良い睡眠のために一番大切なのは、まずは「朝食をしっかり摂ること」です。 ──「健康のためにも、朝ごはんを食べましょう」とは子どもの頃からずっといわれていますが、そもそも朝ごはんを食べることと睡眠は、直接関係があるのでしょうか。 大いに関係があります。まず「良い眠り」とは、①睡眠時間を十分確保できていること、②レム睡眠とノンレム睡眠がバランス良く繰り返されるなど、質が良いこと、③生体リズムが整っていること、が条件となります。この「時間・質・リズム」の3つがとても大切で、どれか1つでも欠けると良い眠りにはつながりません。食事は「質」と「リズム」に関わっています。質の良い眠りのためには、夜になって分泌されるメラトニンというホルモンとの関わりが深いです。
朝食は、赤身魚、納豆、乳製品、卵を!
──具体的に、「これを食べればホルモンが良く出る」といった、良い眠りにつながる食べ物はあるのでしょうか。 朝食でタンパク質をしっかり摂ることが大切です。なぜ朝食で摂ることが大切か説明しましょう。そもそもタンパク質はアミノ酸が集まってできていて、アミノ酸のひとつであるトリプトファンを朝摂ると、お昼にセロトニンに変わります。セロトニンはよく「幸せホルモン」ともいわれますが、心を安定させたりする効果があります。そのセロトニンを材料にして、今度は夜、メラトニンというホルモンを作って分泌させます。このメラトニンが生体リズムを整えるホルモンなのですが、「夜になりましたよ」と身体に教えてくれたり、血圧を下げたり、眠る準備を整えてくれるのです。 ──メラトニンが分泌されることで、入眠しやすくなるのですね。 その通りです。寝ている間に成長ホルモンがしっかり分泌されることで質が良くなるのですが、メラトニンがしっかり分泌されると、夜もこの成長ホルモンが出やすくなります。なので、いかにメラトニンをしっかり分泌させるかが大切になってきます。 ──朝食べるタンパク質の中でも、特におすすめの食材はありますか。 良質なタンパク質=トリプトファンが豊富な食品、つまり、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品です。日頃から肉を食べることは多いと思います。ですので、中でもおすすめしたいのがカツオやマグロなどの赤身の魚です。赤身の魚には、日中セロトニンを作るときに必要な鉄やビタミンB6も豊富に含まれているからです。厚労省の国民健康・栄養調査でも、鉄分やビタミンB6は日本人に不足している栄養素なので、トリプトファンと鉄分、ビタミンB6が一緒に摂れるツナ缶やサバ缶はとてもおすすめです。 ──たしかに、唐揚げや生姜焼き、ラーメンのチャーシューなど、肉を使った料理は和洋中問わず多くの店で食べられますが、赤身魚は、和食店や定食屋に入らないとなかなか食べないかもしれません。 そうなんです。意識しないと選ばない人が多いと思います。肉・魚以外だと、朝ごはんの定番である納豆や乳製品、卵も積極的に摂りたい食材です。 ──卵は「1日1個まで」とも聞きますが。 卵にはコレステロールが含まれているので、昔はそのようにいわれていましたが、コレステロールの数値が高い方でなければ、2、3個食べても問題ありません。健康診断でコレステロール値を指摘されている方は気をつけたほうがいいですね。卵かけごはんにかつお節をトッピングすれば、卵とかつおのタンパク質や栄養素が一度に摂れるのでおすすめです。 ──プロテインを飲むのはどうでしょう。 朝ごはんを食べる習慣がなくて、「これから始めよう」という方はまずはプロテインドリンクや豆乳などを飲むのもいいと思います。でも、できれば食事を摂ってほしいですね。なぜかというと、糖質があることでタンパク質本来の働きをすることができるのですが、タンパク質は身体の中でタンパク質単体では働けないのです。プロテインドリンクにも糖は含まれているのですが、しっかり糖質を摂るという意味ではごはんやパンを食べる習慣がつくといいと思います。また、糖質をしっかり摂ることで、24時間より少し長めの体内時計がリセットされるため、良い眠りに就きやすくなります。