観光に、出張に、仮住まいに…~安さが魅力の住まいのサブスク
リノベーションの工事に関して、アドレスでは、工事はその地元の業者に頼むようにしている。 空き家のオーナーだけではなく、地域にもお金が落ちる流れを作っているのだ。 「僕らでやらせてもらえるのはありがたいと思います」(「三和電機」・三和寿樹さん) 〇アドレスが目指す課題解決2~人を呼びこみ、地域を活性化 工事と並行して、アドレスはオーナーを探す説明会を北海道の中川町で開催していた。説明を聞きにきた反中祐介さんは1年前、中川町に移住、アウトドアの観光ガイドを営む。移住にあたり築50年の空き家のオーナーにもなった。 この地に移住を決めた大きな理由が、近くにある里山などの豊かな自然環境。そこで今回、アウトドア観光の拠点となるアドレスの施設を作ろうと思い立った。 「より面白い観光資源をつくるきっかけづくりとしても、アドレスの施設が使えるかなと思っています」(反中さん) 空き家問題に悩む個人や自治体は多く、アドレスへの問い合わせは増える一方だという。アドレスの施設は北海道から沖縄まで、今や全国300カ所に迫る。
多拠点生活で地方を活性化~社会課題に挑むアドレス
多拠点生活を送る佐別當は、現在は静岡・三島市と札幌を中心に全国のアドレスの拠点を回って暮らしている。 この日は佐別當の歓迎会に、アドレスに期待を寄せる地元の人たちが集まっていた。 「佐別當さんが来てくれて大きな変化が生まれた」(夫がゲストハウスを経営する山森さん) 「いろいろな人を連れてきてくれて世界が広がった」(三島市教育委員会・山本さん) 佐別當は1977年、大阪・八尾市に生まれる。外務省か国連に入って世の中を変えたいと思い立命館大学国際関係学部に進学。そこで1人に1台配られたのが、当時はまだ珍しかったアップル製のノートパソコンだった。これが佐別當の進路を変える。 「個人が情報発信したりコミュニケーションを取ったりできる。社会を変え得るのはインターネットではないかと思い始めた」(佐別當) 大学卒業後、普及し始めたばかりのインターネットサービスを行うITベンチャーに就職。そこでシェアリングエコノミーと呼ばれる新しいビジネス分野と出会った。個人同士で行う物や場所、スキルなどのやり取りを、インターネットを使って仲介するサービスだ。 例えば「メルカリ」はモノを、「ココナラ」はスキルをやり取り。自宅の空き部屋を貸し出す「Airbnb」もシェアリングエコノミーの代表例だ。このサービスこそ自分の目指すべき領域だと感じた佐別當は、行動に出る。 2016年、シェアリングエコノミー協会という業界団体を立ち上げ、普及活動に乗り出す。すると、「人口減少が進む自治体からのシェアリングエコノミーを活用したいという相談が非常に多かったんです。そこで都会に住んでいる人と地域の空き家をマッチングできれば、新しいビジネスができるのではないかと」(佐別當)。 都会で暮らす人を地方に導く取り組みはこうして始まった。 佐別當がまず目をつけた場所は、復活した観光地の熱海。若者やファミリー層向けの「気軽にお試し移住を」という企画を、熱海市と連携して立ち上げた。市の駐車場にキャンピングカーを並べ、試しに住んでもらう、というアイデアだった。 ところが周辺住民への説明会は、反対の怒号が飛び交う事態となってしまった。実は市の所有する駐車場は飲み屋や風俗店が密集する歓楽街のど真ん中。そんな場所に都会からファミリー層が来たら商売がやりにくくなると、住民は反対したのだ。 「夜の活性化はいいが、昼間の家族連れが来るエリアではないから、違うと」(佐別當) 住民たちの反対の声は高まり、結局、計画は頓挫した。 「地域のルール、言語、歴史が全然違う。いろいろなタイプの熱海の人たちがいることを分かっていなかったと思います」(佐別當) 佐別當はこの経験で、地域の人が主体的に動く形にしなければうまくいかないと痛感。そこで会員と地域の繋ぎ役となる「家守」というポジションを作り、地元の人に任せることにしたのだ。 アドレスは2018年に創業。今、佐別當が思い描く「家守」の理想形を実践するのが小田原市の平井丈夫さん。喫茶店を営みながら、「家守」を務めている。 平井さんは、アドレスの会員がやってくると周辺の観光案内も買って出る。また、小田原の施設を利用した会員と地元住民の交流イベントも定期的に開催。 参加者の中にはこうしたイベントを気に入り、再度、小田原にやってくる人もいる。こうして小田原に関わるようになる人を増やし、平井さんがきっかけで小田原に移住した人は6人もいると言う。