建物が倒壊すると「自転車」を盗まれやすい…大地震のあとに起きる「犯罪被害」の実態
今年元旦に発生した能登半島地震の被災地では窃盗事件が相次いでいる。石川県内では震災後から3月5日までに、避難所での置き引きなど51件の窃盗事件が発生しているという。「災害と犯罪」にまつわる問題は、欧米では古くから取りざたされてきたが、近年では日本でも看過できない問題となっている。 【マンガ】「南海トラフ巨大地震」が起きた時、もし「名古屋港」にいたら… 被災地での犯罪被害は資産を奪うことで復旧や復興を遅らせるだけではなく、被災者の気持ちをも削いでしまう、許しがたい行為である。これらの犯罪は復旧や復興の進み具合とも関係があることが分かっている。防災・危機管理アドバイザーの古本尚樹さんが解説する。 記事前編は「被災直後の街を狙う窃盗犯、その恐ろしすぎる『蛮行』…卑劣な手口が明かされた」から。
建物被害で自転車やオートバイを盗まれやすくなる
私自身も被災者の健康とソーシャル・キャピタル(社会関係資本)との因果関係を、統計分析で分析しているが(ここでいうソーシャル・キャピタルとは、例えば役場や病院との関係や情報や、近所付き合い、また災害に備えて訓練に参加するとか、保険をかけるとかということを当てている)、岡本英生らによる研究「東日本大震災による被害が被災地の犯罪発生に与えた影響」では、複数要素の関連について回帰分析を利用して考察している。 そこでは、住んでいた地域 が「建物被害」が出るほどの 震災被害を受ければ,自転車やオートバイを盗まれやすい。また「停電期間」が長い地域であれば、それだけ夜間が暗いという状態が続くことから、窃盗被害にあいやすくなるだろうとの考察をしている。他にも、住んでいた地域が「人的被害」が出るほどの震災被害を受ければガソリンを盗まれやすくなる、など、統計分析をする者にとっても興味深い研究をしている。インフラと呼ばれる電気やガス、水道の復旧の遅れは犯罪を誘発しかねないともいえるだろう。だから、災害復旧や復興は早さが求められるというのが多様な面からいえるのだ。
避難生活のストレスが誘発する犯罪
被災地の犯罪は外部からの窃盗等のみならず、被災地の中でも起こる。顕著な例が避難所での犯罪だ。特に避難生活が長期化するとその傾向は強まる。避難者同士のケンカや備品の盗難なども増加する。それだけストレスを抱えることが一因だろう。 また、女性や子供が被害に遭わないような配慮がより重要になる。2013年に越谷市で竜巻被害があった。その自治体対応調査で、市役所での聞き取り調査をしたのだが、自治体は避難所に女性の警察官を巡回してもらうような対応を取っていた。女性が相談しやすく、かつ被害を受けないようにするための配慮だ。