「来年は会社がないかもしれない」背水の父に頼まれ、IT企業の息子は福井に戻った 大ヒット老眼鏡でV字回復した「眼鏡の聖地」の企業
眼鏡の聖地「福井県鯖江市」ならではの大ヒット商品がある。一見すると普通の眼鏡だが、たたむと厚さわずか2ミリという老眼鏡。2012年の発売以来、累計10万本を売り上げるベストセラー「ペーパーグラス」を開発したのは、西村プレシジョン社長・西村昭宏氏だ。会社のルーツは、昭宏氏の父が経営していた眼鏡の部品工場。しかし、海外の安価な製品に押され、一時は廃業寸前に追い込まれていた。危機を救うため家業に戻った昭宏氏を待っていたのは、激しい親子の対立だった。 【動画】事業承継は社会問題でありチャンス
◆薄さ2ミリを実現した「魔法の老眼鏡」
──大ヒット商品のペーパーグラスは、たたんでも厚さ2ミリということですが、どうやって作っているのですか。 通常の眼鏡は、レンズとフレームと、テンプルと言われるツルが繋がっている部分が水平についています。 一方、ペーパーグラスは下に傾いています。 この構造にすることで、たたむと平らなのに開くと立体になります。 特許も取得しており、機能性とかけ心地の両方を実現しています。 ──なぜ薄い眼鏡を開発したのですか。 老眼鏡は、常に携帯しているものです。必要不可欠な機能的要素は、「読む、見る、書く」の必要なときにさっと取り出せて、終わったら片付けられるという点です。 ──ペーパーグラスは1万6500円という価格で、発売以来10万本を売り上げていますが、どのように評価していますか。 老眼鏡にブランドがなかったことだと思います。例えば、サングラスと言えばレイバンがあります。でも、老眼鏡には確固たるブランドがなかったのです。 一方で、老眼鏡ユーザーは既存商品に決して満足している状況ではなかった。 ならばユーザー満足度が高い商品を投入できれば、きっと評価してもらえるだろう、という発想が始まりです。
◆アトツギが会社を成長させる「第2創業」
──成功する事業承継について、「第2創業」という言葉で表現することがあります。 先代が創業し、その会社の「強み」や「技術」に、後継者の新しい感覚や視点が掛け合わされ、大ブレークを起こすというものです。 西村プレシジョンも「第2創業」にあたるのではないですか。 まさしく「第2創業」だと思います。 家業を継ぐときに、既存の有形無形の資産を生かして新しい事業を興してきました。 ただ、このペーパーグラスは、実は「第3創業」になるわけです。