食品業界を震撼させた花王の「減塩醤油特許」、他社に大きな影響を与える緻密な特許戦略とは?
ここでも、注目記載を太字にしてあります。 【特開2007-289083の明細書より】 【0034】 本発明の容器詰液体調味料中は、糖類等の甘味料を含有するのが好ましい。甘味料の含有量は1~30%であるのが好ましく、より好ましくは3.5~20%、更に5~15%、特に6~12%、殊更7~10%であるのが、カリウム由来の異味抑制、風味バランスの点で好ましい。糖類としては、グルコース、ガラクトース、アラビノース、フルクトース、シュークロース、マルトース、液糖、転化糖、水飴、澱粉、デキストリン等の他、エリスリトール、グリセロール、ソルビトール、トレハロース、還元水あめ等の糖アルコールも例示される。また必要により、糖類以外のグリチルリチン、ステビオサイド、アスパルテームなどの甘味料も用いられる。 【0036】 本発明においては、液体調味料中の窒素含有量が1.65%以上であるのが好ましく、より好ましくは1.7~2.2%、更に1.8~2%であるのが塩味増強、カリウム由来の異味抑制、風味バランスの点で好ましい。特に、成分(C)を除いた液体調味料中の窒素含有量が上記範囲であるのが、塩味増強、カリウム由来の異味抑制、風味バランスの点で好ましい。 じっくり読んでいくと、第3章で紹介した3Mの「気泡が残らない保護フィルム」に関する特許に非常に近い雰囲気を感じるんですよね。 分割出願をかなり意識していると思われ、甘味料の含有量や窒素の含有量について、さまざまな記載があります。もちろん、それぞれに対応する実施例もあります。僕が3Mの特許を何百件も読んでじっくり研究したからかもしれませんが、この特許には、なんとかして強い権利を取っていくぞ、という気迫を感じますね。 他にも、血圧降下作用のある物質を加えるという「減塩(減ナトリウム)」と親和性の良い視点も入っていたりして、ここからの分割出願を前提として、とにかく多面的に権利が取りたいんだ、というのが伝わってきます。 この特許を引用している特許(被引用特許)のリストを見ると、この特許がどういう企業にどれぐらい影響を及ぼすものか、影響力の幅というか大きさがだいたいわかります(図66)。 花王が固め出ししているので自己引用が目立ちますが、キッコーマンやヤマサ醤油のような歴史ある醤油メーカーの名前が出ています。 そういう伝統的な食品メーカーは特許出願件数が少ないですから、花王が急速に特許網を固めつつある領域について、醤油メーカーにも影響が出ていると捉えてよいでしょう。