食品業界を震撼させた花王の「減塩醤油特許」、他社に大きな影響を与える緻密な特許戦略とは?
関連特許の被引用には、キユーピー、ADEKA、ロート製薬、小林製薬なんかも出てきていますので、花王の減塩調味料への取り組みは、割と幅広い業界や分野に影響を与えるものなんだろうということが、なんとなくわかりますね。 もちろん花王は、「広く影響を与える」ために特許を出しているわけですから、作戦は成功しているといえるでしょう。せっかくですから、技術の流れを見るという意味で、被引用だけじゃなくて引用のほうも見ておきましょう。 油脂製品という会社の「機能性食塩組成物」という特許が引用にあって、僕はこれに注目しました。まず、社名を見た瞬間にピンときたんですよね。油(油脂)の会社がなんで食塩なんだろう、って思ったんです。 でも、よく考えたら花王も油脂の会社だから、これはなんかありそうだぞ、という感じですね。この間、10秒ぐらいです。 特許を読むと、案の定、減塩食品の特許でした。機能性食品組成物って書いてあるのですが、要するに減ナトリウム食品の特許でした。カリウムを入れてナトリウムを減らし、味を調えるためにクエン酸やアミノ酸を入れる、と書いてありました。内容的には、花王が考えていることそのものです。 発明塾用語で「ドンズバ」と言います。コンセプトは、まったく同じです。油脂の企業同士ですから、花王が知らなかったとは考えにくい。むしろ花王は、この特許を見て研究を始めたんじゃないか、と言いたくなるぐらいです(笑)。 花王という、これだけ緻密な特許を出す企業が、これぐらい近い分野の先行特許を調べていないはずがないですよね。 日頃から、近い業界の企業の特許は徹底的にウオッチングしているでしょうから、見てないとは思えない。その上で、先行例がすでにある、ある種当たり前ともいえる領域を、どう権利化するか、考え抜いてから出願しているはずです。
楠浦 崇央