食品業界を震撼させた花王の「減塩醤油特許」、他社に大きな影響を与える緻密な特許戦略とは?
特許を読んでいくと、ナトリウムを減らす代わりにカリウムで補います、でもそうするとやっぱりちょっと味がおかしくなる、と書いてあります。「異味」と表現されていますが、食品業界の方に聞くと、カリウムには「えぐみ」みたいなものがあるそうです。 どうやらそれをアミノ酸で補う、あるいは、マスクするという感じですね。「風味」という言葉もここで出てきます。ナトリウムを減らしてカリウムを増やすと、自然な塩味ではなくなるわけですね。「カリウム」の量を増やし、かつ、その「異味」を消すアミノ酸を加えるような権利を取りたい理由が見えてきました。 請求項では醤油とは書いていませんが、明細書を読むと、「しょうゆ」「醤油」と繰り返し書いていますので、醤油を念頭に置いていることは明白です。明細書内の関連記載を引用しておきます。ここでも、注目記載を太字にしておきますね。 【特開2007-289083の明細書より】 【0053】 本発明においては、液体調味料とは、醤油、つゆ、たれ等の通常、食塩を含有する液体状の調味料をいい、日本農林規格に適合する「しょうゆ」に調味料、酸味料、香料、だし、エキス類等を添加した、「しょうゆ」と同様の用途で用いられる液体調味料を含む。具体的には、麺つゆ(ストレートタイプ、濃縮タイプ)、おでんつゆ、鍋物つゆ、煮物つゆ、天つゆ、天丼つゆ等のつゆ類、蒲焼のたれ、照り焼のたれ、焼肉のたれ、焼鳥のたれ、すきやきのたれ、しゃぶしゃぶのたれ等のたれ類、だし割り醤油、土佐醤油、松前醤油、八方だし、低塩醤油等が挙げられ、低塩醤油が好ましい。 【0054】 ここで、本発明における「醤油」とは、日本農林規格の「しょうゆ」と同一概念である。また、しょうゆに調味料、酸味料、香料、だし、エキス類等を添加したものを「しょうゆ加工品」という。なお、本願で記載する「液体調味料」は、上記のしょうゆ及びしょうゆ加工品を含むことはもちろん、これらの規格からは外れるが本願の要件を備えた調味料を含める概念とする。 先ほど見ていただいた請求項は、すべて出願時のものです。その後、(C)のアミノ酸について「アスパラギン酸」「グルタミン酸」に限定して権利化しています。 ナトリウムは3.6~5.5%と下限の数値を入れていますが、カリウムは出願時の通り権利化できています。やはり、カリウムの量に関する権利は死守したかったのかなという感じがしますね。 また、明細書内の記載や実施例を見ると、後で権利の範囲を変更できるように含みを持たせていることがわかります。この辺にも権利化への執念を僕は感じますので、明細書から関連記載を引用しておきます。