食品業界を震撼させた花王の「減塩醤油特許」、他社に大きな影響を与える緻密な特許戦略とは?
減塩醤油の話をする前に、そもそも、一般的な醤油にはどんな成分がどの程度含まれているか、説明しておきましょう。いわゆる「塩分」に関していうと、醤油100gにはナトリウムが5000~6000㎎(5~6質量%)ほど、カリウムが100~800㎎(0.1~0.8質量%)ほど含まれています。 他に、うま味成分であるグルタミン酸とアスパラギン酸を中心に、アミノ酸が豊富に含まれています。もともと醤油には、塩分だけでなくアミノ酸が豊富に含まれていて、それが塩味を補っているんですね。 ■ 先行例研究を徹底して、影響力の大きな特許を取る それでは早速、減塩調味料の特許(特開2007-289083)を見てみましょう。請求項1、請求項2、請求項3を引用しておきます。 請求項とは、権利の範囲を表した記載で、発明の本質が端的に記載されているものでしたね。だから、少し堅苦しいのですが、特許がどんな発明に関するものか、技術や発明の内容を理解する上で避けて通れないので、ぜひ読んでみてください。 【特開2007-289083の請求項より】 【 請求項1 】 次の成分(A)、(B)、(C)及 び(D)、 (A)ナトリウム 5.5質量%以下 (B)カリウム 0.5~6質量% (C)酸性アミノ酸が2質量%超、及び/又は塩基性アミノ酸が1質量%超 (D)エタノール 1~10質量% を含有する容器詰液体調味料。 【 請求項2】 成分(C)の酸性アミノ酸が、グルタミン酸又は、アスパラギン酸である請求項1に記載の容器詰液体調味料。 【請求項3】 成分(C)の塩基性アミノ酸が、リジン又は、アルギニンである請求項1又は2に記載の容器詰液体調味料。 請求項1ではナトリウム5.5質量%以下、カリウム、0.5~6質量%までとしています。一般的な醤油には、ナトリウムが5~6%含まれているわけですから、ナトリウムの数値範囲は通常の醤油とあまり変わりませんね。 一方のカリウムは、一般的な醤油では0.1~0.8%ですから、かなり多いところまでカバーしようとしていますね。高血圧を防ぐという視点では、「減塩」は「減ナトリウム」になります。 でもこの特許では、ナトリウムを減らすというよりは「カリウムを増やす」ところに権利化の力点が置かれているように見えますね。もちろん、塩味を強めるグルタミン酸とアスパラギン酸も構成要素に入っています。