アメリカ人にとって「パリジェンヌ」は絶対的な幻想? 人気ドラマシリーズのデザイナーにインタビュー
エミリー、パリへ行く
「このシリーズで人生が変わりました。この企画にかかわるようになったのは2019年、52歳のときで、それまで映画の仕事は何十本もしてきました。でもこの「エミリー、パリへ行く」の反響はすごかった。仕事を引き受ける基準は常に、題材や物語が面白いか興味をそそられるかです。時代を先取りして人々の求めるモノを作りだせる人たちはステキですね。このエミリーシリーズは、ファッションが主役だと思ったことはありません。私はファッション界の出身ではないし、ファッション界は尊敬しているけれど、昔から何よりも興味があったのは服そのものでした。オファーをもらったときにシナリオを読んでみました。シカゴからチェックのシャツを着てパリにやってきた女の子が、仕事でも上司のシルヴィにも、第1話からバカにされます。パリジェンヌ・スタイルを象徴するフィリピーヌ・ルロワ=ボリュー演じるシルヴィのスタイリングも私がやっていますけれどね。なぜエミリーは、スノッブな上司から服装についてあれこれ言われるがままなのか、私が嫌悪する典型的なパリジェンヌスタイルにしないためにはどうしたらいいのか? って思いました。主演のリリー・コリンズと話して、ある種のカルチャーショックを作り出す提案に彼女も同意してくれました。だから主人公の服はファッションアイコンではなく、キャラクターの表現としてスタイリングしています。それと、一般には知られていませんが、予算はかなり限られています。ユーズドをサイトで購入することもあり、1点あたり100ユーロが上限です。ショールームやスモールブランドは全部見て回ったから、現在はヴィンテージ・ブティックを開拓中です」
独創的なビジョン
「みんなから『ダサいものを美化している』と言われることは気にしていません。キャラクターを創るために働いているのであってその点では自由です。このシリーズはよくファッション誌から酷評されてきました。「エミリーがおしゃれになるにはこんな服を着るべき」なんて記事もありました。こちらの意図を全然理解していないんだなとかえって愉快になりました。コメントにも傷つきませんが時にはびっくりするような内容のものがあります。このシリーズのテーマはファッションではありません。ロックダウンでみんなの気分転換が必要な時期に登場した、楽しい気分になるためのカラフルな泡のようなものです。さんざんこきおろされて「陳腐」だと言われましたが、みんなが観てくれました! リリー・コリンズはずっとストイックでした。シーズン1で少しスタイルを変える提案をしたら、彼女は即座に断りました。「創ったキャラクターを掘り下げましょう」って。徹底的にやってくれて感謝しています。彼女はこのシリーズのプロデューサーでもありますが、服装を理由にいじめられた俳優はいないと断言できます(笑)! 『エミリー、パリへ行く』は誰も無関心ではいられない、芸術的なパッチワークのような作品です。目的は達成されたと私は思います。感動を呼び、話題となる。無関心でいられるよりもいいですね。フランス人は自分たちがこのシリーズを好んで観ていることを打ち明けられません! 罪なお楽しみですね」