アメリカ人にとって「パリジェンヌ」は絶対的な幻想? 人気ドラマシリーズのデザイナーにインタビュー
「エミリー、パリへ行く」の華やかなファッションをスタイリングしたのがこの人。Netflixでシーズン4の配信が開始するのに先立ち、この型破りなコスチュームデザイナーに「パリジェンヌ」らしさとはなにかを聞いてみた。 【写真】“フランスらしさ”を体現したジェーン・バーキン 「色とモチーフはいつだって私らしさを構成する一部」とマリリン・フィトゥシは言う。Netflixの人気ドラマシリーズ「エミリー、パリへ行く」のスタイリングにあたっては、ミニマリズムこそが「フランス的な趣味の良さ」とする通念に一石を投じ、若手デザイナーの斬新なコレクションからマイナーブランドの実験的な作品、さらには個性の強い小物まで駆使してみせた。57歳のデザイナーのトレードマークは頭に巻いた黒ターバン。23歳の時からかぶっているが、これ、実はシャツをぐるぐる巻きにしているのだそう。彼女には、そのドレスやコートはどこのブランド? なんて質問をぶつけてはいけない。答えは決まっている。「服をブランドロゴで選ぶことはありません。それが何を語るのか、全体のなかでどうなのか、まとまりと感動をどう作りだすのかで選ぶのです。ラベルを気にかけることはこれまでもこれからもありません。私のオフィスにはバッグの海ができていて、適切なストーリーを語るバッグを必要に応じて都度選びだしています」 シーズン1から「エミリー、パリへ行く」にスタイリストとして関わってきた。シーズン4は今夏に配信が開始されるが、ブリジット・マクロンが登場すること以外、詳細は明らかになっていない。 マリリン・フィトゥシはフランス南部の小さな工業都市で育った。少女の頃からこの町を出たくてたまらなかった。「劇場も映画館もなければ、その他の文化的な活動も一切ない場所に暮らしていて、唯一の気晴らしは祖母の家へ行き、ムーラン・ルージュの大晦日ショーをテレビで見ることでした。羽根やスパンコールの衣装は、フランシス・ロペスのオペレッタ番組とともに、最初の美的衝撃でした。別な世界が存在することを知り、自分もそこで暮らしたいと思ったのです」。高校を卒業してパリに上京した。エコール・ド・ルーヴルや国立応用美術学校でテキスタイルデザインを学び「官能的な素材にうっとりする」日々を送った。卒業後は衣装レンタル会社に就職した。「博物館のようなところで、あらゆる時代のドレスコードを学びました」と言う。のちに「エミリー、パリへ行く」でコスチューム・デザイナーズ・ギルド・アワード(コンテンポラリー・テレビシリーズ部門)を受賞することになるマリリン・フィトゥシがコスチュームデザイナーのキャリアをスタートさせたのは、主に18世紀を舞台とする時代劇映画だった。 中世が舞台のテレビシリーズ「Kaamelott」(フランスのTV局M6で放送)にたずさわり、その映画化にも関わったことがきっかけでNetflixから声がかかった。「中世前期の服はとても単純なんです。私はプラスチックやスパンコール、フェイクファーをプラスして、ちょっと違う雰囲気に仕立てました。Y-3の靴やG-Starのジーンズを加工したり、ステラ・マッカートニーのスカートをカットしてボレロに仕立てたり。手を加えて作り替えたりすることが好きです。企画を「モンティパイソン化」していいとゴーサインが出たら、とことんシュールでファンタスティックにするぞと張り切ります。モチーフを多用するのは無地の生地のそっけなさが怖いから。それが自分の感性であり、学習の結果であり、カルチャーです。ドレープひとつ、風に舞うスカート、生地の手触り。そこからスタイリングがひらめきます」と言う。マリリン・フィトゥシは「自分を追い詰める」必要があるそうだ。さもないとすぐに飽きる。「絶えず実験しています。間違ったと思う時もありますが、探究しつづけます」