MES(製造実行システム)導入で失敗するのは…誰のせい? 課題が多い「RFPの作り方」
スマート工場のキーマンはMES、なぜ導入時に問題が起きる?
このように、同研究会ではスマート工場の実現においてMES/MOMの導入が鍵になると考えていますが、現状、MES/MOMに関してはERPのような標準的なノウハウが確立されておらず、有識者も限られています。 そうしたことから、MES/MOMユーザーと導入支援をするベンダー・SIerの間で齟齬が生まれやすく、後々問題に発展するケースが散見されています。 こうした状況を踏まえ、同研究会では、製造業のユーザーがMESベンダーやSIerに対して「目的や構想・コンセプト」を正しく伝えるための「標準業務機能リスト(標準カタログ)」に基づき、ユーザーがシステム化したい業務を列挙し、どの部分をMES/MOMに期待するのかを整理し、RFP(提案依頼)のスコープ検討に役立つテンプレート作りを進めています。 ここからは、特にMES/MOM導入の課題となっているテーマとともに、実際に同研究会が作成したテンプレートを解説します。
だからRFP作成がややこしくなる?MES11機能の問題点
「MES」とネットで検索すると必ず出てくるのが、米国のMES推進団体である「MESA International」がMESの機能を区分・定義した「MESの11機能」です。 ■MESの11機能 ・生産資源の配分・監視(Resource Allocation & Status) ・仕様・文書管理(Document Control) ・作業スケジューリング(Operations/Detailed Scheduling) ・差立・製造指示(Dispatching Production Units) ・作業者管理(Labor Management) ・プロセス管理(Process Management) ・データ収集(Data Collection & Acquisition) ・製品追跡と体系管理(Product Tracking & Genealogy) ・実績分析(Performance Analysis) ・品質管理(Quality Management) ・保守・保全管理(Maintenance Management) 当研究会では、MES/MOM導入における問題を、「MESの11機能」に関して日本の製造業の方々に理解が難しい点、またこの理解が難しい「11機能」の考え方をベースにRFP作成を進めてしまう点にあると考えています。 なぜ、不慣れかと言えば、MESA InternationalのMESの機能区分にわかりにくい点があるためです。 MESの11機能について考えてみると、たとえば、最初に出てくる「生産資源」という言葉は実務ではほとんど使われないと思われ、このような言葉の壁も課題と考えられます。 さらに、MESの11機能の活用においては具体的な生産資源とは何か、作業のスケジューリングというのは生産スケジューラの機能ではないのか、仕掛品の在庫管理はMESで行わないのか、といったさまざまな困りごとが出てくると考えられ、こうしたことも11機能を分かりづらくしている要因ではないかと考えています。 現状は、MESの11機能ベースで、RFPを作成するユーザー企業が多く、それにより下記のような課題が発生しています。 ■MESの11機能ベースでRFPを作成することで起きる問題点(例) ・MES導入検討における、工場内の担当・責任部門が横断的になり、導入検討プロジェクトの際に常時多くのメンバーを会議に召集する必要があるが、1人ひとりの出番が少なくなるため、各メンバーのモチベーションが低下し、責任感が希薄になる ・11機能の区分けが製造部門には馴染みがなく、本来、検討内容をシンプルにすることが目的であるはずのフレームワークに合わせるための苦労が発生する ・結果的に、ユーザー企業のメンバーがうまく情報整理や分類ができない状態となり、導入ベンダーにもユーザーの意図が伝わりにくくなってしまう