日銀総裁の利上げ慎重姿勢、円安進行で正常化ロジック損なわれる恐れ
(ブルームバーグ): 日本銀行の植田和男総裁が利上げに慎重な姿勢を示し、円安傾向が再び強まっている。さらに下落が続けば、経済・物価に合わせて金融政策の正常化を進めるという日銀のロジックが損なわれるリスクがある。
経済・物価が日銀の想定通り進んでいることをデータが示し、利上げを正当化しているにもかかわらず、円安阻止のために利上げに踏み切ることになれば、植田総裁が発するメッセージの信頼性が失われかねないと多くのエコノミストが指摘する。
12月の金融政策決定会合前にブルームバーグが実施した調査によると、40%を超えるエコノミストは、インフレ率や賃金、経済の動向がおおむね日銀の想定通りに推移し、円相場が対ドルで前月から上昇していたことから、前週の決定会合を利上げに適したタイミングとみていた。86%は足元の経済・物価情勢は利上げを正当化すると回答していた。
これに対し日銀は待つことを選んだ。国内の政治情勢や来年1月に発足するトランプ次期米政権の政策を巡る不確実性などが、今回の決定に影響を与えたと考えられる。しかし、植田総裁が次回利上げを3月以降に先送りする可能性も示唆したことで円は再び下落し、5カ月ぶりの安値を付けた。そして日銀のコミュニケーション戦略に対して新たな疑念も生じている。
BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストはリポートで、「もちろん1月会合で利上げがあることを確約するような発言は予想していなかった」と指摘。ただ、「円安へのけん制も意図して、もう少し近い将来での利上げに傾いていることをにじませる内容になると考えていた」と記した。
さまざまな不確実性が待ち受ける中、植田総裁には1月の利上げが強く織り込まれるような事態を避ける意図があったのだろう。ただ、利上げの可能性について市場が期待していたよりもシグナルが弱かったために円安が一段と進んでおり、結局は自らのもくろみと完全には一致しない形で1月に動かざるを得ないかもしれない。