日銀総裁の利上げ慎重姿勢、円安進行で正常化ロジック損なわれる恐れ
もし春まで動かないことを選ぶということなら、総裁は通貨当局者が当面、口先介入で円弱気派をけん制し、円安を抑えることを期待するしかない。
みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは、円売りの余力は依然大きそうで、「3月まで円安が抑止された状態が続くのか」と疑問を呈した。その上で、1カ月以上先の次回会合で円が160円を超えていない保証はないと指摘。今後1カ月は従来以上に円安が利上げの主因に用いられやすくなり、「徐々に、しかし確実に金融政策の通貨政策化が進む状況と言わざるを得ない」と述べた。
23日の円相場は1ドル=156円台で推移している。前週末は一時157円93銭まで下落した。
円が対ドルで7月以来の安値を更新する中、加藤勝信財務相は19日の会見で、最近の為替市場では一方的かつ急激な動きが見られると指摘。投機的な動きも含めて為替動向を「憂慮している」と急速な円安に警戒感を示した。その時点で円は12月初めから4.9%、9月中旬からは10.6%下落していた。
日銀と通貨当局からの情報発信の流れは、黒田東彦前総裁時代に初めて見られたパターンと酷似する。日銀総裁からのハト派的な発言をきっかけに円安が進み、通貨当局がすぐさま警告を発するというものだ。このサイクルは、日銀が円安抑制につながる措置を講じるまで、政府が円を買い支えるという行動につながった。
市場の混乱を招くことなく金融政策を正常化するという使命を負って2023年4月に総裁に就任した植田氏は、日銀に新たな視点をもたらした。黒田氏が進めた拡張的な金融政策を円滑かつ迅速に修正する手腕は当初、日銀ウオッチャーの期待を上回った。就任から丸1年が経過する前にはイールドカーブコントロール(YCC)を廃止。17年ぶりに政策金利の引き上げに成功し、マイナス金利に幕を閉じた。
しかしその翌月には植田総裁はコミュニケーションに苦労することになる。4月の総裁発言を受けて円安がさらに進み、政府は円買い介入を実施。7月には160円を超えたところで再び介入に踏み切り、介入額は年間で15兆円超に達した。その後、同月の会合で決定した追加利上げは、さらなる円安に歯止めをかけるための措置と受け止められた。