くも膜下出血を経験した独身漫画家が語る「生きる準備と死ぬ準備」 #病とともに
死を意識した闘病生活で気付けたこと
――救急車で運ばれてから約2週間の入院生活。その後、3度目の手術を前に一度自宅に戻って身辺整理をされています。その時の心境は? 新月ゆき: 退院して家に戻ったら、生きる準備と死ぬ準備をしようと思いました。所有品の整理やお金の整理など、私しか知らないもろもろのことを整理したかったんです。もし死ぬことになっても、身軽な状態で死んでいきたいなと、その時強く思っていました。これは後で知ったことなんですけれども、自分の死を意識した人は人生の整理をしたいと思うみたいなんですね。 ――この時にエンディングノートを書き始めたそうですね。 新月ゆき: 私はくも膜下出血になるまで、エンディングノートというものを知りませんでした。入院中、ある方が勧めてくれたんです。私と病名は違うんですが、同じく自分の死を意識した人でした。私と近い思いや苦しみ、葛藤があったかもしれないこの方が勧めてくれるのなら、私もエンディングノートを書いてみようと思ったんです。 私が購入したエンディングノートは、自分自身の整理整頓のきっかけ、入り口にいいと思いました。書き込む内容は、銀行口座などお金の項目、家族構成や親族の名前一覧など家族親戚に関する項目、自分のIDやパスワードなど自身の基本情報など多岐にわたっています。自分の人生の取扱説明書のような感じです。書き始めて項目の多さに驚きましたね。 初めは自分の死を見つめながら書くというのが難しくて、書くことがつらく感じることもありました。だけど、自分一人だけでは記入することができない項目を、家族に確認したことがあったんですが、その時、本心をしっかり伝え合えて、とても解放された気持ちになることができたんです。本当に心が軽くなりました。死ぬときの話は縁起が悪いと一般的に言われるので、家族でもあえて話さず、避けて通ってきた話題だったと思います。でもエンディングノートをきっかけに、お互いの気持ちを話すことで理解が深まり、私自身とてもスッキリしました。 ――所有物の整理やエンディングノートの記入をやってみて、心境の変化はありましたか。 新月ゆき: 退院して私が本当にやりたかったことは、同じシェアハウスの同居人と話をしたり、食事をしたり、怒ったり笑ったり、これまでの日常的な生活だということに気付きました。人との関わりを私は求めていたということがわかったんです。実際病気になってみて、“人は一人で生きているようで一人で生きていない”ということにやっと気付きました。 ――くも膜下出血を発症した当時の自分に伝えたいことはありますか? 新月ゆき: 一人で頑張り過ぎないで、でしょうか。自分だけでなんとかしようとしてしまう方って多いと思うんです。まずは自分が思っていることを、周囲の人たちに共有する。そして、周囲の人たちの思いも自分に共有してもらう。一人でキュッと握りしめて解決しようとするんじゃなくて、ちょっと何か手を緩める。話をするだけで心が前に進んでいくことってあると思います。