「病気だからと全部あきらめなくていい」バセドウ病を公表した向後桃が語る、プロレスラーの道を選んだ理由 #病とともに
甲状腺ホルモンが過剰に産生されてしまう病気である「バセドウ病」。2020年バセドウ病を患っていることを公表した女子プロレスラーの向後桃さんは、病気発覚前、身体の不調を感じながらも「みんなと同じように動けないのは自分の怠け癖のせいと思っていた」と語ります。病気が分かって治療を続ける中で、俳優からプロレスラーに転身した向後さん。その決断の裏にあった思いや、自身の病気を公表した理由を聞きました。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
◆専門家が見る記事のポイント
向後さんはご自身の人生をいきいきと楽しんでいらっしゃるという印象を受けました。一般的に、診断や早期治療は大事だと言われます。でも何より重要なのは、それをきっかけに、当事者の生活が豊かになったり前向きになれたりするかどうかです。【医療ジャーナリスト・市川衛】
「頑張れないのは自分のせいだと思っていた」バセドウ病だと分かってホッとした理由
――どのようなきっかけでバセドウ病が発覚したのでしょうか。 向後桃: 2016年にグランプリをいただいた「ミス湘南コンテスト」の期間中に、たまたま受けた健康診断で発覚しました。その頃、体温が平熱で37度以上あり、明らかに痩せてきていたんです。健康診断では触診で甲状腺が肥大していることが分かり、いくつかの質問からおそらくバセドウ病だろうという診断を受け、その後、再検査で血液検査をして確定しました。 ――病気と分かるまでに自覚症状はありましたか。 向後桃: 常にどこかに寄りかかっていないと背筋を伸ばして座ることができなかったですし、大きな交差点はすごく頑張らないと渡り切るのが辛いという状態でした。だから、外出した日は家に帰るまでに疲れてしまって、休憩しようと立ち寄ったカフェでそのまま寝てしまっていたこともあるくらい。家に帰ってきても、靴を脱いでいる途中に玄関でそのまま寝ちゃうなんてこともあって、まるで何日も寝ていない人のような状態でした。歩くのが辛くて買い物などにも出かけなくなりました。とにかく常に疲れていましたね。 ただ、少しずつ悪くなっていたので体調が悪いという自覚はあまりなく、ましてやそれが病気のせいだとは思ってもいませんでした。でも常に「なんで自分はこんなに頑張れないんだろう」「どうしてみんなのように活動的になれないんだろう」という意識はあったんですよね。あとから病院で言われて知ったのですが、体が疲れやすい分、心にもそれが響いてしまってメンタルが落ちやすくなることがあるみたいです。 ――バセドウ病が分かってから、どのように病気と向き合ってきたのでしょうか。 向後桃: バセドウ病の発覚後、すぐに投薬治療を始めました。投薬治療をすると重大な副作用が起きることがあるため、2週間に一回の血液検査で異常がないかも確認していましたね。 でも、病名が分かって正直安心したんです。病名が分かる前は、頑張れないことを自分の怠け癖のせいだと思っていて「自分はなんてダメなんだ」と自己嫌悪していて、だらけている姿を周りの人に見せないようにしていました。そうすることで、自分自身を追い込んでしまっていたんです。病名が分かってからは「頑張れないのは病気のせいなんだ」と分かって、自分を追い込むのをやめました。治療という解決方法があることにすごくホッとしたし、希望が見えましたね。 ――向後さんの場合は、見た目からは分からなかったと思うのですが、それによって周囲の人から病気のことを理解してもらいにくいこともありそうですね。 向後桃: そうですね。たとえばバスや電車で立っているのが限界になった時でも、優先席に座ると人の目が気になってしまうんです。だから優先席に座れなくて、電車を一度降りてホームで休んでからまた乗っていました。 あとは体型ですね。当時は今より10kg以上痩せていたので「痩せすぎだよ」とか「もう少しお肉をつけた方がいいよ」とよく言われました。自分で望んで痩せているわけではなかったので、心の余裕がない時はすごく辛かったですね。もちろん体型によって生まれる病気もあるので、私を心配して言ってくださるのかもしれませんが、全く関係ができていない方や初対面の方が体型について言及するのは、正直あまりいい気分ではないです。 ――投薬治療を開始してから、症状は回復しましたか。 向後桃: 投薬治療前は歩くのもしんどい状態だったんですが、投薬治療後は明らかに体力が変わっていきました。バセドウ病は、少しずつ薬を減らしていって最終的には薬がなくてもいい寛解(かんかい)という状態を目指すのですが、一度は寛解したくらいまで回復したんです。ただ、その後1カ月で元に戻ってしまったので、よくなったり悪くなったりを繰り返してはいるんですけど、投薬治療前と比べたら全然違います。普通に歩いたり、食べたいものをたくさん食べたりと、体力や体調は明らかによくなっていますね。