伊藤忠の文書流出「平社員でも年収2000万」の真偽 「雇われたい…」と給与制度改定の文書にSNS沸騰
それらを考慮すれば、目標達成した社員が年収2000万以上を維持できるとは限りません。頑張っているグレード3の普通のヒラ社員の来年度の年収は、今年度トップランクだったヒラ社員とそれほど変わらない水準になるのではないでしょうか。 ■ポイント3:子会社の給与は世間並 さて、冒頭で話題にしたXの投稿の中には、専門家からみれば微笑ましいポストも垣間見られました。 「今からビッグモーターに入社」という投稿を見つけました。ビッグモーターは伊藤忠が買収して今では会社の名前は変わっているのですが、伊藤忠グループに違いはありません。その旧ビッグモーターに入社したら流出文書と同じ給与がもらえるのかという投稿ですが、当然、そうではないのです。
伊藤忠商事の従業員は連結ベースで11万3700人いらっしゃいます。彼らが勤務するのは伊藤忠のグループ会社や投資先の子会社です。そしてそのような会社で働くひとたちの給与水準はそれぞれの業界の水準と変わらないものです。 これはよくある「子会社の待遇は親会社とは全然違う」というものでもあるのですが、もう一歩踏み込んでいえば、それらの会社が利益を生むことで、その総計が伊藤忠商事の高い業績になっているという構造があるのです。
スキル面でいえば、高い投資利益を生む伊藤忠商事の少数精鋭の社員には非常に高いビジネススキルが求められる一方で、現場で利益を生む子会社・事業会社の社員にはそれぞれの業界での専門スキルがあればいい。 言い換えれば伊藤忠商事の正社員は投資家でありプロ経営者の仕事です。一方で伊藤忠商事のグループ会社の社員はそれぞれの事業の従業員です。当然ながら子会社の社員の報酬は世間並に落ち着くわけです。 ■優秀な社員にあまり報酬を払わない企業は生き残れない
さて、最後にまとめさせていただくと、伊藤忠だけでなく総合商社3社は日本企業の中でも突出して報酬が高いことで知られていますが、これは日本経済でみればもっと真似されるべき状態だと思います。 世界全体で時代は人的資源経営へと移り始めています。優秀な社員にそれほど報酬を払わないでこき使う企業は長くは生き残ることができない時代です。その前提を考えると、他の上場企業でも、会社にとって重要な貢献をするヒラ社員に2000万円の報酬を与えるという制度は積極的に導入すべきなのではないでしょうか。
貢献に報いるという意味でも、会社を長期的に成長させていくという意味でも、それは大切な新しい考え方だと、今回の流出事件を通じて私は感じます。
鈴木 貴博 :経済評論家、百年コンサルティング代表