「袴田事件」ってどんな事件? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
(2)「開かれた司法」の流れ 2009年から殺人など重大事件に市民が参加する裁判員制度が始まりました。仕事や家事もある市民を長時間裁判へ釘付けできないためスピードアップしつつも正しい判断ができるよう「公判前整理手続」といって裁判員以外に裁判へ関わるプロの裁判官、検察官、弁護人(弁護士が務める)初公判より前に論点などを絞り込む工夫がなされます。その際に弁護側も検察が持つ証拠を開示できる権利が2005年の刑事訴訟法改正で認められました。袴田事件でも死刑囚の供述や元社員の証言など新しく開示された証拠があります。 再審請求そのものにこの権利が適用されるわけではなりません。また「袴田無罪」の決定的な証言までは至っていないようです。しかし今「袴田事件」が起きれば間違いなく裁判員裁判となるわけで「開かれた司法」への流れに検察も応じざるを得ない時代の雰囲気があり自主的に提出するとの体裁でいくつかの新証言が現れました。
どういう位置づけの事件なのか
これまで述べてきた通り袴田事件には「自白の任意性」「刑事裁判の鉄則」「科学捜査の進展」「開かれた司法」といった過去から今日に渡る刑事事件および裁判の要素が多々詰まっています。加うるに「死刑制度」を考え直す重要な役割もあります。再審請求の間、死刑囚とて執行されないのが原則ですが絶対ではありません。確定判決が出るまで考えもしなかった科学の進展や法運営のあり方の変化が訪れる可能性は今後も十分あり得ます。 死刑という罰は後になって間違いとわかっても取り返しがつきません。むろん有期刑や無期懲役でも冤罪は多大な犠牲を加害者とされた者が払うものの、生きてさえいればギリギリ許される余地も出てくるでしょう。それでも死刑制度は維持か、維持するとしても今のままでいいのかと袴田事件第2次再審請求は世に問うたといえます。 --------------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】