坂口健太郎の生演奏&生田斗真の心音を採取 「さよならのつづき」録音スタッフが明かす製作秘話
走行中のキハ40 エンジン音の中でも
今作に限った話ではないですが、撮影行為といえば大抵は「大事なシーンほど音の環境は悪い」が一般的です。フォトジェニックな景色を狙って高所に上れば風が強いし、ドラマチックな映像演出を狙う場合は大抵、天候の演出(風を吹かせたり、雨を降らせたり)が発生、巨大な送風機や散水車が稼働する中での撮影となりますし、狭い室内や車内でカメラポジションが引けば窓が開き、外の音が流れ込んでくるからです。 「さよならのつづき」では大きなロケーションとして電車内やホームでの撮影が多くありましたが、特に今回お借りしたキハ40という車両は現在は使われていないとても貴重な車体で、駆動系統がディーゼルのエンジンで、現行の車両に比べて停止時、走行時共にエンジン音が非常に大きいという問題があり、また停車時も小まめにエンジンの入り切りができないという、音声を収録する人間からすると非常な強敵でした。もともと準備の早い段階では電車内の撮影はセットを組んで撮影する可能性もあり、「セットならセリフの質はキープできるだろう」と思っていましたが、やはり実際に走行している車内で撮影をした方がお芝居もしやすいだろうということに。 北海道にロケハンに行った時に初めてキハ40に乗車した時は、予想より大きなエンジン音に頭を抱えました。もちろん、そこから革新的な対応策が出るわけでもないので撮影中は車内の空調を切ることぐらいしかできないですし、与えられた撮影区間の中でノルマの撮影分量をこなしていかなければいけないタイトな撮影スケジュールだったので、「オンリー」と呼ばれる撮影直後にその場で環境を整えて声だけを収録させてもらう行為なども一切行っていません。
リレコーディングミキサー、浜田洋輔の技
そのような状況の中でも自分が自信を持って収録ができる理由の一つとして、長年僕の作品の音声仕上げを担当してくれているリレコーディングミキサーの浜田洋輔の存在があります。リレコーディングミキサーという名前は一般的にはまだ聞き覚えのない言葉かもしれません。僕の過去に書いた記事などをお読みいただいている方は何度か紹介しているのでご存じかもしれませんが、簡単に言えば撮影終了後に僕の収録した音のノイズを抜いたり、周波数の調整をして聞きやすくした上で映像と合わせて適正なボリュームを決めて作品の音を作っていったりする、撮影後の音の最高責任者です。 おすしを作る過程で考えるともっとわかりやすいかもしれません。魚を釣って、鮮度を保ったままお店に運び、さばいてシャリと合わせてお客様に提供する。僕は最高にでかい魚を釣り、プリプリのまま浜田に持っていき、浜田はさばいてシャリ(効果音や音楽)と合わせて握ってくれるということです。ここの関係性を確立しているので、準備段階から現場状況や撮影中も収録したデータをチェックしてもらいつつ、品質の共有、現場環境などに大きな問題があれば意見をもらい、早い段階から監督やプロデューサー陣を交えて具体的なアプローチを取ることができます。