エネルギー小国日本の選択(16) ── 原発推進を求める産業界
日本の原子力政策が撤退か推進かで揺れ動く中、産業界は大いに翻弄された。福島第1事故後、原発が次々と止まり、電力各社は窮地に追い込まれた。新たな規制基準に従って安全性の審査を受け、一部の原発は合格し、再稼働に至った。今も多くの原発で審査が続いている。一方、老朽化した原発をめぐっては廃炉の選択もあれば、例外的な運転延長措置もあった。 需要家側は使用電力を切り詰めた。だが、高止まりする電気代や節電に限界を訴える製造業も少なくなく、そうした声は原発再稼働を後押しする材料になった。 今回は、震災後の原発の動向と企業への影響を中心に振り返りたい。
全原発が止まった2012年
2012年5月、北海道電力の泊原発3号機が停止し、日本国内の全原発が止まった。全原発停止は、1970年に当時2基しかなかった原発が検査で止まって以来、42年ぶりのことだった。 2011年以降、菅直人首相(当時)の要請に基づき止まった中部電力浜岡原発のほか、東日本大震災と津波による浸水被害などで自動停止した原発もあった。各発電所に義務付けられている定期検査で止めた後、多くは動かないままとなった。原子力安全・保安院は廃止となり、新組織の発足と新たな規制基準の施行を前にした過渡期で、旧来通りの審査による再稼働は認められなくなっていた。 泊3号機停止の1カ月余り前まで「稼働中の残る2基」として動いていたのが東電の柏崎刈羽原発6号機(新潟県)だった。原発事故後も原発を動かし続ける東電には批判もあったが、首都圏の大きな需要を背景に「電力の安定には活用せざるを得なかった」(東電元幹部)という。 電力各社とも、原発による供給量は格段に落ちた。大手10社合計の電源構成に占める原子力の比率は2010年度の約3割から、2011年度には1割強、2012年度には1%台まで急低下していった。
原発停止で巨額赤字続出の大手電力
原発は3つの"E"に優れるとされる。すなわちEnergy Security(安定供給)、Environment(環境)とEconomical Efficiency(経済性)だ。特に経済性の面では、各社の収益を支える柱となっていた。 電力は社会インフラだ。原発が止まっても電気を届ける使命がある。各社は持ちうる発電設備を総動員し、供給力の確保に苦心した。特に頼りにしたのが火力発電所で、設備の修繕の時期をずらすといった工夫もしながら、1年のうち需要の高い夏や冬を乗り越えた。 その結果、電源構成の原子力の割合が減ったのに対し、2012年度に火力発電は約9割に上昇した。燃料となる液化天然ガス(LNG)や石炭を海外から大量購入し、火力燃料費が収益を圧迫した。 各社の業績はみるみる落ち込んだ。2012年3月期は原発を持たない沖縄電力を除く大手9社のうち8社が、連結純損益の赤字に陥った。東電を筆頭に数千億円の損失が相次いだ。東海第2原発(茨城県)が頼みの綱の日本原子力発電も、128億円と過去最悪の連結純損失となった。 2013年3月期も北陸、沖縄の両電力を除く8社が赤字となった。原発に依存し、原発なしでは立ちゆかない電力各社の状況が浮き彫りとなった。背景には、石油危機以降の脱石油という政府の大方針もあった。